アンケート調査で超重要な『質問の順序』~リサーチとナンパの共通点~


マーケティングリサーチャーの渡邉俊です。

突然ですが、僕の友人に昔ナンパ師だったという人がいます。
学生時代はほとんど大学にも行かず、昼間はバイトをして、夜になると毎晩渋谷のセンター街に行って女の子をナンパしていたらしいです。

そこだけ話すと何ともロクでもない人間だと思うかもしれませんが、現在は有名証券会社で部長をしており、多くの部下を抱える身となっています。

昔ロクでもなかった奴ほど案外出世するのかもしれません (笑)

で、そいつとある日一緒に飲んでいた時、頼んでもいないのに『ナンパのコツ』について話をしてくれました。
何でもナンパには、『成功させる為の会話のフレームワーク』いうものがあるそうです。

彼曰く、ナンパとは女の子との言葉のキャッチボールな訳でいきなり『一緒に遊びませんか?』と誘ってしまうと成功率が下がってしまい、返答しやすい質問から話すのが成功へのセオリーだとの事です。

『どこから来たの?』
『仕事してるの?それとも学生?』
『出身はどこ?』

この辺りが女の子に最初にする典型的な質問で、自分と女の子の共通項を探し、その共通の話題を見つけたら徐々に遊びに誘っていく・・・

これが成功へのフレームワークだと。

さて。
このサイトはナンパのやり方を伝授する為のものではありません(笑)

しかし、マーケティングリサーチもナンパと同じでまずはインタビューするにしても、アンケートを取るにしても回答者に対する『質問の順番』というのが『超』重要事項になります。

今日はそれについてお話しします。

マーケティングリサーチにおいて質問の順番は、1つ間違えると命取りになります。
このブログを最後まできちんと読んで、調査票やインタビューフローを作成する際は最新の注意を払ってください。

 

回答者のウォーミングアップは絶対重要

 

ここにある食生活に関するアンケート調査の1問目があります。
皆さんならどちらが回答しやすいですか?

1)当社の新商品についてどんな点が魅力的と思いますか。
2)あなたの性別をお答え下さい。

おそらく、ほとんどの方は2)の方が回答しやすいと感じていると思います。
なぜなら、1)は自分の考えをまとめないといけないのに対し、2)は事実を答えればよいだけだからです。

このように質問というモノには大きく分けると2つの種類があります。

それは、
・『事実』を回答する設問
・『自分の思いや考え』を回答する設問

です。

通常アンケートでもインタビューでも一緒ですが、
前半はなるべく簡単に答えられる質問をし、回答者が考えないといけない質問を後半にするというのが基本セオリーです。

例えば、

「あなたの性別をお答え下さい」
「あなたの年齢を教えて下さい」
「同居しているご家族はいますか?」

など、特に考えなくても頭にパッと答えが浮かぶような『事実』を答えてもらう質問をまず最初に行います。

そうすると、回答者は「このアンケートは簡単に答えられそうだ」という安心感を抱き、質問に答えていくうちにテンポも良くなって回答する事が苦ではなくなります。
要するに、回答者をウォーミングアップさせるのです。

もちろん、ただ事実だけを聞いていては効果的なアンケートとは言えませんが、この「事実」の確認を質問の先頭に持ってくることが効果的な戦略となります。

 

回答者の脳内環境を作る

 

調査の前半で回答者にまつわる基本的な「事実」の確認をするのが良いと説明しました。
ここにも、回答者の本音を引き出す為の「コツ」があります。

 

先程の例では、性別や年齢、家族構成などの基本的な情報を前半に質問しました。
これが『食生活』に関するアンケートであるならば、ここに続けて少しずつ本題に入っていきます。

「朝食は毎日何時頃に摂りますか?」
「スーパーなどでお惣菜を購入する事はありますか?」
「食生活で栄養バランスをどの程度気にしていますか?」

・・・などです。

こうして『事実確認』を行いながら、少しずつ自分が本当に聴きたい事を質問する方向に誘導していく事で、回答者の頭の中を後半に必要な情報で埋めていき、本当に聞きたい質問をした時に答えやすくなるよう、回答者の脳内環境を作り出しておくのです。

これは人間の記憶の仕組みにも関係しています。
人間の記憶というのは連鎖的に思い出される性質があると言われています。

例えば「好きな色はなんですか?」という質問に対して「赤」と答えた人に「好きな果物はなんですか?」と聞くと、「リンゴ」や「イチゴ」「スイカ(身が赤い)」など赤いイメージの果物を思い浮かべる傾向があります。

アンケートでもこの「記憶」がもつ性質を活用し、質問に関連性を持たせる事でこちらが聞きたい本音を回答者から聞き出しやすくできるのです。

アンケートの基本的な質問順序(4段階)

アンケートでもインタビューでもそうなのですが、
私がマーケティングリサーチをする際、質問の順序は4つパートを意識して構成を考えます。

その4つのパートとは、

  1. Starting (スターティング)
  2. Motivating (モチベーティング)
  3. Performing (パフォーミング)
  4. Closing (クロージング)

です。1つ1つ解説いたします。

1.Starting (スターティング)

まずは上記でも説明した通り、回答者をウォーミングアップさせてアンケートに答える脳内環境を整えさせるパートです。
簡単なものとして、例えば性別や年齢(年代)、居住地などいわゆる回答者属性に関する質問ですね。

しかし簡単に答えられる質問であれば何でもよいという訳ではありません。
きちんと調査目的にあった質問をすることが大切です。

例えばアパレルブランドのイメージ調査をしたい場合、回答者の性別や年齢を聞くのは後で分析をする上で必要かもしれませんが、
『普段クルマを運転しますか?』、『朝は何時に起きますか?』などはいくら答えやすくても分析には不必要です。

調査終了後に分析することを考え、必ず分析に必要でかつ簡単に答えられる質問をこのパートに設定しましょう。

2.Motivating (モチベーティング)

回答者のウォーミングアップが済んだら、次に行うのは『回答者の回答意欲を徐々に高めていく』ということです。

アパレルブランドのイメージ調査の場合、一番聞きたいのは「自分のブランドに対して、回答者はどのようなイメージを持っているか」ですが、ここではまだその質問をしません。
その一番聞きたい質問にきちんと本音で答えてもらうよう、回答者のモチベーションを高めていくのです。

例えば、

『あなたは月に何回くらい服を買いますか?』
『普段どのようなブランドの服を購入しますか?』
『月にいくらくらい服を購入しますか?』

など、アパレル関係についてその人の普段の行動や思いなどを聞いていきます。
服に対する質問に対し、それに答える意欲を高めてもらうのです。

3.Performing (パフォーミング)

回答意欲を高める事ができたらいよいよ本題です。料理で言うメインディッシュですね。
一番聞きたい質問をこのパートに設定し、調査目的達成の為に切り込んでいきましょう。
ブランドイメージ調査であれば、

『次に以下のアパレルブランドについて伺います。あなたはそれぞれのブランドについてどのようなイメージを持っていますか。以下の選択肢の中から当てはまるものを全てお選びください。』

という質問でしょうか。

これまでのパートできちんと回答意欲が高められていれば、少々突っ込んだ質問も答えてくれるはずです。

4.Closing (クロージング)

聞きたいことを聞くことができたらおしまい!ではありません。
最後にクロージングというパートが必要です。

このパートの目的はクールダウンです。
質問する側にとって一番重要なパートを終えたので満足かもしれませんが、回答者は前のパートの難しい質問に対して頭を使って回答しています。

その”回答熱”を冷やす為にも、例えば
『最後に、現在のアパレル業界については何かご意見、ご要望などあればお書きください』といった質問を設定して締めたり、またはStartingで聞く回答者属性に関する質問の一部をClosingに持ってきても構いません。
最後に回答しやすい質問を設定する事がクールダウンにつながります。

この4つのパートを意識して質問を構成して下さい。

※ちなみにアンケートの質問構成を含めた『調査設計』については、Lactivator発行の無料メール講座で詳しく解説しています。
是非この機会に購読登録してみて下さいませ。

 

【注意!】質問の順序に関する致命的なミス

上記のように4つのパートを意識して質問の順序を考えるのが基本です。

但し、そう簡単に終わらないのがマーケティングリサーチの難しい所です。

定量調査でも定性調査でも、質問の順番というのは最後の最後まで気を抜いてはいけません。
なぜなら、その順番をミスすることによって全く使えないデータが出てくる可能性もあるからです。

いくつか事例を紹介しましょう。

 

致命的なミス事例①:キャリーオーバー効果

以下はある市で市民に対して行われた市政調査の調査票の抜粋です。

Q:〇〇市では、市内の全市道、全県道の緑地化活動を進めています。あなたはこの活動の内容をどの程度ご存知ですか。

1.内容を大変よく知っている
2.内容を知っている
3.活動は知っているが、内容は知らない
4.活動のことは全く知らない

Q:あなたは〇〇市の現在の市政についてどの程度満足していますか。

1.大変満足している
2.満足している
3.どちらともいえない
4.満足していない
5.全く満足していない

 

『緑地化活動を知っているか否か』の事実を答える質問の後で『市政への満足度』という自分の意見を答える質問があるので、先程の4つのパートに当てはめると流れとしては問題ないように見えます。

しかし、これだと後ろの質問である『市政への満足度』が正しく評価されない可能性が高いです。

市民の中には前問の『緑地化活動』について知っている人もいれば知らない人もいます。
但しこの質問順だと、前問が存在する事で回答者全員が緑地化活動を知ってしまい、その上で市政の満足度を評価してしまいます。
その為、市政の満足度は『大変満足している』、『満足している』など良い方向に回答が偏ってしまう可能性があります。

このように、前の質問が後ろの質問の回答に想定外の影響を及ぼしてしまうことを『キャリーオーバー効果』と言い、正しいデータを得る為には避けなければいけません。

この問題を解決するには、4つのパートのセオリーとは外れますが、質問の順序を逆にした方が良いです。
具体的には、『市政の満足度評価』の後に『緑地化活動の認知』という順番です。

 

致命的なミス事例②:アンカリング

次に以下の調査票です。

Q1: もしこの商品の価格が30,000円だったとしたらあなたは購入しますか。
Q2: この商品について、この値段だと高すぎて買わないと思う価格はいくらですか。
Q3: この商品について、高過ぎると思わないが高いと感じ始める価格はいくらですか。
Q4: この商品について、安すぎると思わないが安いと感じ始める価格はいくらですか。
Q5: この商品について、安すぎて品質に不安を覚えると思う価格はいくらですか。

ある商品の価格に関する調査です。

下の4問(Q2~Q5)の回答結果は『PSM(Pricing Sensitivity Measurement)』という最適価格を算出する際に使用するデータになります。

この調査票の流れは、Q1で『30,000円という価格に対する購入意欲』を聴取し、Q2~Q5で最適価格を検証するという形になっています。

但し、これだとPSMのデータが正しく聴取されません。
Q1で『30000円』という値が脳の中に焼き付けられるので、その後の質問は30000円という数字をベースにして答えてしまうからです。
PSMを行う場合、事前にその商品の価格を提示する事はNGです。

このように、何かを評価、判断するのに事前に示された数字が影響されてしまうことを『アンカリング』と言います。

※PSMやアンカリングについては以下のブログで詳しく紹介しています。
ご参考に是非ご覧下さい。

 

回答形式は「記述」ではなく「選択」に

上記の通り、質問の順序はかなり気をつけないといけません。
また、これは順序の話から少し逸れますが、回答形式は『記述式』ではなく「選択式」にするという事も重要です。

アンケートでは、シンプルな形式の方が回答者のストレスが少なくて済みます。
特にQuestantなどのセルフ型Webアンケートを利用する場合、次の質問にどんどん進める単一回答型の方が、最後までアンケートに目を通してもらえる割合が高くなります。

これが『記述式』の質問だと「面倒くさいからやめた!」といってページを離れてしまう人もいるので、『選択式』の質問形式にする事の重要性は覚えて頂いた方が良いでしょう。

 

アンケートにストレスは大敵!

アンケートを作る際に多くの人が犯してしまう失敗は「欲張って色々と聞きすぎてしまう事」です。
答えて欲しい内容が多いと、ついつい自由回答欄を作って『記述式』の質問を用意してしまうのですが、これは逆効果です。

先程も書きましたが、特にQuestantなどのWebアンケートでは少しでも「このアンケートは面倒くさい」と思われたらページから離れられてしまいます。
せっかくアンケートのページに来てもらったのに途中で回答するのをやめられてしまったら意味がありません。
アンケートを作る上で回答者がストレスを感じるような質問は大敵なのです!

アンケートの序盤では基本的な「事実」の確認をし少しずつ「本当に聴きたい質問」に徐々に移行していき、回答者の脳内環境が整理できた頃合いを見計らって一番聴きたい質問をする。
これが回答者にストレスを感じさせずに本音を聞き出すテクニックなのです。

最初にナンパの話をしましたが、このような『答えやすい質問からしていく』という流れはマーケティングリサーチに限らず、日常生活の中で実は誰でも自然とやっている事なのです。
例えば、取引先のお客様と商談を成立させたい時、いきなり本題に入る方は少ないでしょう。

まず適当な世間話をして、少しずつ取引先のお客様との心の距離を縮めるという手順を踏むと思います。
別に難しいことではなく、日常生活やビジネスでの会話の流れをそのままマーケティングリサーチにも適用すればいいだけなのです。

 

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