優秀なモデレーターに見る『ヒアリング』で本音を引き出す秘訣


マーケティングリサーチャーの渡邉俊です。

突然ですが、『ヒアリング』って結構大事ですよね。
ビジネス上の課題に対する解決策を練る為、そのことを熟知している、または深く関係している人に詳しい事を聴くという作業です。

その対象となる人のアポさえ取れば誰でもできます。
そういう意味では、これも列記としたマーケティングリサーチだと思います。

しかしたかがヒアリングとはいえ、上手な人と下手な人とでは『得られる情報量』にかなりの差がある気がしませんか?

ヒアリングの上手な人と下手な人の違い。
その答えは、インタビュー調査のプロである『モデレーター』を見ているとよく分かります。
優秀なモデレーターはインタビューの対象者から価値ある情報(言葉のデータ)を数多く引き出すスキルを持っています。

そこで今日は、優秀なモデレーターから学ぶ『ヒアリング』の秘訣を紹介したいと思います。

 

『モデレーター』ってどんな人?

そもそもモデレーターとは、グループインタビューなどの定性調査で司会者とインタビュアーの2つの役割を担う人を指します。
対象者がリラックスして自由に発言ができるように場を作り、かつ的確な質問をして対象者から本音を引き出さなければいけません。
そのうえ、ディスカッションが変な方向に行かないよう気を配ったり、誰かの偏った意見に全員が流されすぎないようコントロールする技術も必要です。

もちろん、インタビュー終了後は得られた情報を基に分析も行います。
従いまして、定性調査が成功するか否かは、担当するモデレーターの技量に左右されると言っても過言ではありません。
それくらい重要な仕事です。

 

『ヒアリング』に必要な3つのポイント

もちろん定性調査とヒアリングは全く異なるので、ヒアリングにモデレーターほどのスキルが必要だとは思いません。
もっと気楽にやって良いと思いますが、対話相手からなるべく多くの価値ある情報を得るという点においてはモデレーターから学ぶことはたくさんあります。

それは以下の3つです。

●何よりもまず相手と信頼を構築する・・・『ラポール形成』
●相手の脳が答えやすいように質問の流れを作る・・・『質問力』
●相手が答えやすい「空気」を作る・・・『傾聴力』

 

何よりもまず相手と信頼を構築する・・・『ラポール形成』

モデレーターがインタビューをする際、いきなり本題の話をすることはまずありません。
一番最初にやるのは信頼の構築、いわゆるラポール形成を行います。

対象者がモデレーターを信頼してくれて初めて本音を話してくれるようになるからです。

実際にラポール形成を行う為にやることは至ってシンプルです。
インタビューの最初の10分くらいで、対象者の身辺や過去の事を聴くということです。

『今日はどちらからいらっしゃったのですか?』
『普段はどんなお仕事をされているのですか?』
『そのお仕事を始める前は何をされていたのですか?』

というような質問です。

ポイントは過去の話をすることです。
心理学の臨床データによると『過去の話を共有した相手とは、まるでそれを一緒に経験してきたかのような錯覚を起こす』そうです。

普段あまり人に話すことのない「昔の話」をすることになるので、あなたは「自分の深い部分までを理解してくれる貴重な存在」になる事ができ、短時間でラポール形成を行う事ができます。

 

相手の脳が答えやすいように質問の流れを作る・・・『質問力』

モデレーターはその場で思いついた質問をポンポン聞いていく訳ではありません。

実はインタビュー調査を行う前に、モデレーターは『インタビューフロー』という質問の構成を細かく記した資料をかなり綿密に作ります。
どんな質問をどんな順番で聞いていくのかのフローであり、これがないと調査はできません。

基本的には調査の目的を達成させる為にどんな質問が必要なのかを検討していきます。
そしてそれをどんな順番で聞いていくかですが、この『順番』が結構重要です。

先程申し上げた通り、一番最初にやらなければいけないのはラポール形成ですが、そのあとは『答えやすい質問から答えにくい(考える必要のある)質問』に移行していくのが通常の流れです。

※質問の順番についてはこちらのブログをご覧ください。
 アンケートでもインタビューでも、質問の順番の重要性は一緒です。

 

相手が答えやすい「空気」を作る・・・『傾聴力』

さて、ここが重要です。

上記の通り、ラポール形成や質問力もヒアリングにおいて大切な事なのですが、これから話す傾聴力』についてはできていない方がとっても多いです。

『傾聴力』とは簡単に言えば「聞くスキル」であり、これが上手だと相手から様々な話を引き出すことができます。
コミュニケーション能力のひとつとして重視している企業もありますよね。

しかし、このスキルが弱いためにインタビューやヒアリングで損をしている方が多数いらっしゃいます。
これについては次の章で詳しく説明します。

 

傾聴力を磨く為に意識すべき注意点9つ

上手なモデレーターは傾聴力が非常に高いです。
対象者も『自分の話を聞いてくれているんだな』と感じれば、より多くの情報をしゃべろうとします。

逆に傾聴力が弱いと、対象者も適当に答えて終わりです。

では、人の話を聞く時はどんな点を意識すべきなのか、ポイントを紹介します。
僕自身もインタビュー調査のモデレーターをやる機会がありますが、これまでお手本にしてきた先輩モデレーターを見て、意識して行っている事です。

 

【傾聴の基本のキ】必ず目を見て話す

人の話を聴く時の「超」基本事項です。

取材やヒアリングを行う時、その人の目を見ずに必死に走り書きでメモを取っている方をよく見かけます。
最近ではパソコンにタイピングしながら耳だけこちらに傾けている人もいますよね。

相手の言ったことを一言一句聞き逃したくないからだと思うのですが、相手からすれば全くもって気持ちのよい事ではありません。

人間は目を見て話されることによって『あ、自分がしゃべる事に興味があるんだな』と感じます。

しゃべった事を記録したいのであればボイスレコーダーで録音すれば十分です。
ペンもパソコンも置いて、きちんと相手を見ながら話をしましょう。

 

知ったかぶりは絶対にしない

これも当たり前ですよね。
中年の方が若者に、または逆に若い方が年配の方にインタビューをする時、わからない事が出てくるとつい知ったかぶりをしてしまう事があります。

分からないことを分からないままにしたら何の為のインタビューなのかわからないですよね。
『聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥』と言いますが、こちらがど素人である事を前もって伝えておけば一時の恥にすらなりません。

また知ったかぶりをすると、対象者が『この人、本当に私の言っている事を理解しているのかな?』と不安になります。
相手が話を理解していないと察すると、人間は自然としゃべる量を制限してしまうのです。

そうならない為にも、分からない事は『それってどういう事ですか?』と素直に聞きましょう。

 

相槌は最低10種類は持つ

僕も人と話をする時に『なるほど!』という相槌を多用してしまうのですが、様々な相槌が自然と出てきた方がより傾聴の姿勢を示すことができます。

『はい』、『へぇ~』、『ほうほう』、『なるほど』、『そうですよね』、『うんうん』・・・などなど。
場合によって使い分ける必要がありますが、相槌の種類はたくさんあります。

だからと言って10種類をきちんとローテーションして使え!とは言いません(笑)
自然と多くの相槌を使えるよう、普段の会話から練習しましょう。

 

対象者の発言中に言葉をかぶせない

まだしゃべり終わってないのに質問者が話し始めてしまうと、結構嫌な気分になりますよね。
インタビューやヒアリングの場だと、対象者の気分を壊してしまうことに加え、出てくるはずだった情報を遮断してしまうことになります。

基本的にヒアリングは、質問する側が対象者のペースに合わせる必要があります。
相手がしゃべり終わってから一拍置いて、自分がしゃべり出すくらいの気持ちが必要です。

 

仮定そのままの質問はNG

これは、『私は〇〇だと思うのですが、どうですか?』という質問です。
インタビュー調査の場合はモデレーターが自分自身の意見を言うという事がないので、こちらが持っている仮説を対象者に出すという事は基本的にやってはいけません。

また、是非対象者の立場になって考えてみて下さい。
上記のような質問だと『う~ん、まあそうですね・・・』という感じで、あまり思ってもいないのに質問者に同調する様な返答をしてしまう事が多々あります。

こういうのをリサーチでは『同調(同意)バイアス』といって、『〇〇だと思いませんか?』といった質問をされた場合、それに同調しないと失礼な感覚になり、つい『そうですね』と言ってしていがちになる人間の性格があるのです。

 

対象者が使った言葉を勝手に変えない

例えば対象者が『〇〇の香り』と言ったら、質問者も同じ表現を使って下さい。
『香り』と言ったのに『〇〇の匂い』なんて表現をする事はNGです。

これは、表現方法によっては対象者の気分を害してしまう恐れがあります。
実際「香り」というのはきれいなイメージですが、「匂い」と言ってしまうと若干ネガティブな印象を受けますよね。

また、対象者が『匂い』と表現しないで『香り』という言葉を使ったのは何らかの意味があります。
対象者自身は気づいていない場合もありますが、深層心理においてその言葉をチョイスしたのには理由がある訳です。

インタビュー(定性)調査は対象者の言葉を基に分析を行いますので、モデレーターが勝手に言葉を変えてしまうのは命取りなのです。

ヒアリングでそこまで気を遣わなくてもよいのかもしれませんが、対象者の言葉は基本的に尊重するようにしましょう。

 

都合のよい回答が出た時だけ良い顔をしない

これはよくあるパターンです(笑)

質問者が持っている仮説通りの回答が対象者から出てくると、嬉しそうな顔をして『そうそう!そうですよね!』なんて言ってしまう方がいます。
これでは質問者側がどんな回答を求めているのかがバレバレで、それを意識して対象者は言葉を選ぶようになってしまいます。

常にポーカーフェイスで!・・・なんて言いませんが、対象者の回答に過剰に反応するのはやめましょう。

 

対象者の話したことを勝手に要約しない

対象者からの回答に対して『今おっしゃったことって要するに〇〇ということですよね?』と要約してしまうのはあまりよくありません。

難しい事を簡潔にするので良い事のように思われがちですが、これも場合によっては対象者の気分を害してしまう事があります。

対象者の身になって考えてほしいのですが、たくさんの言葉を並べて一生懸命話したのに『要するに〇〇ってことですか?』と一言でまとめられるとムカッと来るときありませんか?(笑)

要約は自分の心の中でやって、対象者の言葉は言葉通りに受け止めましょう。

 

質問するときに謝らない

『すみません、次の質問なんですけど・・・』という感じで『すみません』が口癖になっている人を多く見かけます。
しかし、ヒアリングやインタビューの場において対象者は質問される為に呼ばれていますので、誤る必要は全くありません。

むしろ『すみません』を多用してしまう事によって、自然の対象者の方が地位的優位に立ってしまい、情報が得にくくなってしまう事は多々あります。

質問者と対象者は対等の立場を保つ必要があります。
だからと言ってタメ口OKではなく(笑)、通常の敬語を交えて普通に接すればよいのです。

 

まとめ

モデレーターが持つ技術がないとヒアリングで情報が引き出せない訳ではありません。

が、上記で示したようなラポール形成や質問力、傾聴力というのを意識してヒアリングに臨めば、より有益な情報が得られるはずです。

最初に申し上げた通り、『ヒアリング』も列記としたリサーチ行為なので、是非上手い人のノウハウを真似て盗んで下さい。

 

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