【事例で解説】アンケート結果を大きく狂わせる『バイアス』とは何か?


マーケティングリサーチャーの渡邉俊です。

アンケートやインタビューなど回答者に質問をしてデータを得る調査の場合、『バイアス』というものが必ず付きまといます。
そしてバイアスが含まれている調査だと正しいデータを得る事ができません。
非常に厄介でなるべく調査設計の中から排除した方がよいのですが、これがなかなか難しい。

今日はそれについてお話ししたいと思います。

ちなみに今回事例として挙げているアンケートの質問文は、全て実際に私が見かけたものです。
あなたの調査票(アンケート票)も、同じようなことになっていないか是非チェックしてみて下さい。

 

『バイアス』とは何か?

マーケティングリサーチにおける『バイアス』

バイアス(bias)を英和辞典で引くと、『傾向、先入観、偏見、先入主』と書いてあります。
ですが、リサーチにおいては、

“回答者の心理的要因によって、調査対象者の回答に偏り(かたより)を生じさせてしまうこと。またはその偏りの原因となる要素”

の事を指します。

いきなりややこしい表現を出してしまいスミマセン(笑)
要するに質問の仕方や回答者の心理的な問題により、本来出るべき結果とは異なるデータがアウトプットされてしまう事を指します。

 

バイアスの最頻事例:誘導バイアス

マーケティングリサーチにおいて具体的にどんなものをバイアスと言うのかというと、一番多くかつ典型的な事例が『誘導バイアス』というものです。

要するに質問自体が回答を誘導してしまっているという事ですね。
例を出すと、

昨今、多くの企業が英語のスキルを重視していますが、あなたは英会話スクールの受講についてどの程度興味がありますか?

英会話スクールの需要を確認する質問です。
おそらくこれを集計すると、『興味がある』と答える人の割合が本来よりも多くなってしまいます。

諸悪の根源は文章の先頭にある、『昨今、多くの企業が英語のスキルを重視していますが』という部分ですね。
単純に英会話スクールに対する興味を聴くのであれば、

【改善例】
あなたは英会話スクールの受講についてどの程度興味がありますか?

とシンプルに聴けばよいはずです。

しかし、その前の文章があることによって回答者は無意識に英語の重要性を気にしてしまい、『興味がある』と答えてしまう訳です。

おそらく質問者側は、意図的にこの文章を書いている訳ではないと思います。
無意識に文章を書いていると、このような質問文が出来上がってしまうのです。

それ以外にもバイアスの事例はたくさんあります。
1つ1つ解説していきますね。

 

アンケート調査でよく見かけるバイアス一覧

アンケートの添削をしていると一番多く見かけるのが誘導バイアスです。
しかしバイアスにはそれ以外にも色々な種類がありますので、ここに紹介しておきます。

※ちなみにバイアス以外にも、一般の方がマーケティング調査で陥りやすい誤解を無料メール講座で紹介しています。購読登録された方にはアンケート調査設計のチェックシートをプレゼントしてますので、是非こちらも購読してみて下さい。

タイトルで回答者を過剰に意識させてしまう『タイトルバイアス』

アンケートを行う時に必ず最初にアンケートのタイトルを書きますが、実はこのタイトルの付け方も非常に重要です。
というのは、このタイトル次第で回答が大きく偏ってしまう可能性があるからです。

基本的にタイトルは、調査の内容を回答者に推測させないようなものを付けましょう。

例えばアンケートのタイトルが

『親が亡くなった際の相続税申告に関するアンケート』

とした場合、質問の中身をある程度推測できてしまいますよね。
相続税に関する事を聴かれるのは間違いなく、想像力豊かな人であれば具体的な質問を事前に頭の中に思い描いてしまうことでしょう。

実はそのように、アンケートに答える前に中身を推測されてしまう事が調査ではNGです。

相続税に興味がない人は回答を拒否してしまうでしょうし、また事前に内容を推測されると、回答者が無意識のうちに回答を「準備」してしまう可能性が生まれます。

調査というのは、回答者にあまり意識させず、無意識で中立的な状態で回答してもらうのが理想なのですね。

従いましてこの場合は、

『税金に関するアンケート』

という風に大まかなタイトルにすればよいのです。
これであれば調査内容を事前に推測できませんし、自分には関係ないと思う方もほとんどいないはずです。

『自動車に関するアンケート』、『食品に関するアンケート』、『あなたご自身に関するアンケート』など大括りのタイトルにして内容を悟られないようにすることを心掛けて下さい。

 

知らぬ間に回答者の同意を誘っている『同意バイアス』

あなたは東京オリンピックを生で観戦したいと思いますか?
1.はい
2.いいえ

一見普通の文章に見えますが、これだと読む人によっては『東京オリンピックを生で観戦しようよ!』と質問者から同意を求められているように見えます。
もっと極端な事例として、『あなたは東京オリンピックを生で観戦したいと思いませんか?』だと更に強く同意を求めているニュアンスになりますよね。

これだと回答は現実と異なり、『はい』と回答する方多くなってしまいます。

【改善例】
あなたは東京オリンピックをどの程度観戦したいと思いますか?
以下の選択肢の中から当てはまるものを1つお選びください。
1.是非観戦したい
2.まあ観戦したい
3.どちらともいえない
4.あまり観戦したくない
5.全く観戦したくない

という風に、同意のニュアンスを消す質問にする必要があります。

 

無意識に自分を良く見せようとする『社会適応性バイアス』

あなたはネット上に、誹謗中傷を含むコメントや文章を掲載したことがありますか?

1.ある
2.ない
3.わからない

上記の例のように、大学やマスコミの方々が実施されているアンケートでは『回答者の善悪』を問う質問をよく見かけます。
現にこれはテレビ局が行ったアンケートで、実際に結果を報道番組で発表していました。

その時『ある』と答えた人は3%程度という結果だったので、番組では『ネット上でひどい事を書いている人はごくわずかだ』と結論付けていました。
しかし、この3%という数字はどの程度信頼できるのでしょうか?

人間には、『自分は良い人間だと思われたい』という心理があります。
従いまして、この心理を刺激するような質問はなかなか本音が出てこないのですよね。
上記の質問だと、本当は誹謗中傷のコメントをした事があるのに、『ない』、『わからない』と答えてしまう人が多くなってしまうのです。

ビジネスでこのようなアンケートを取る事が少ない?かもしれませんが、大学で社会学などを研究している人にとってはとてもやっかいな問題です。

ですが、この類の調査をやる時の方法として『ランダム回答法』というものがあります。
少し手間のかかる調査になってしまいますが、正しいデータを得る為にもこちらの方法をおススメします。

※『ランダム回答法』についてはこちらのブログで詳しく解説していますので、ご興味ある方はご覧ください。

 

前の情報が強く作用する『アンカリング』

今回の講座の受講料は1人5,000円でしたが、もし8,000円だったとしたらあなたは受講していましたか?

という値上げのオポチュニティを確認する質問。
恐らく質問者は受講料を+3000円ほど値上げしたい思っているはずです(笑)
でも値上げしたら受講者が減ってしまうのではないか?と考えているからこそ、こんな質問をしたのでしょうね。

しかしこの質問だと、『受講しない』と答える割合が実際よりもかなり多くなってしまいます。
これは『アンカリング』という心理操作が働いてしまうからです。

回答者は5,000円という今の受講料を知ったうえで8,000円という価格を評価しています。
すると自然と人間は、『今の受講料より3,000円高いとなるとなあ・・・』という感じになってしまうのです。

しかし、実際に8,000円に値上げして講座を開講する時の受講者は、5,000円という情報は基本的に知りませんよね?
なぜなら5,000円の受講者と8,000円の受講者は違う人ですから。

となると、8,000円の受講者は『8,000円』という価格情報だけで受講するかどうかを判断する訳ですから、上記アンケートの状況とは全く異なり、アウトプットされたデータが正しいとは言えない訳です。

このように、価格に関するアンケート調査はかなり難しいです。
自分がその商品をいくらなら買うのかは、その時の状況によって違うからです。

ただ、どうしても自分の商品の適正価格を知りたいのであれば、PSM(Pricing Sensitivity Measurement)という方法があります。
以下のブログに詳細を書いてますので、是非読んでみて下さい。

 

過去の記憶があいまいになる『テレスコーピング』

弊社の商品を知ってから購入するまでにどのくらいの時間がかかりましたか?

ここ最近『カスタマージャーニー』という言葉がマーケティングで重視されています。
お客様が商品を認知してから購入するまでどのような行動をしたのかを把握して、それをマーケティング戦略に生かすというものです。

通常、カスタマージャーニーを描く際にはターゲットとする顧客の購買行動情報が必要です。
その為、アンケートを使ってその過程を聴くというのをよく見かけるのですが、人間には『テレスコーピング』という認知科学的な現象があります。

何かの出来事を思い出す時に時間的順列があいまいになるという現象です。

よくテレビでニュースなどを見ると、『あの事件が起こってからもう1年経ったんだ!』とか『あの事件って自分が就職する前だったっけ?』など過去に起こった事の順列がわからなくなることありますよね。

従いまして、アンケートやインタビューで過去の出来事やその順列を聴いても正確でない可能性が高いのです。

 

自分の力を誇張したがる『名声バイアス』

あなたは社内における機材の購買に関してどの程度決定権を持っていますか?

これも先ほどの社会適応性バイアスと同様、人間は自分を良く見せようとする修正があります。

但し、社会対応性バイアスは自分を善人に見せようとする性質でしたが、この事例は自分の権力や名声を誇張したくなるというものです。
上記の質問だと、決定権がある方向にデータが偏るはずです。

皆さんも、アンケートなどで年収を聴かれるとちょっと高めに回答したりしませんか?
それと一緒です(笑)

これに対する対応策は難しいです。
大切なのは、権力や名声、年収などを聴くと若干誇張して回答されるものであるということを認識しておくことです。

 

記名式アンケートも立派なバイアス

また以下のような場合もバイアスが働きます。

●回答者の名前を記入させる場合
●質問者側の会社名(ブランド名)が記載されている場合

アンケート回収後にお礼の品(インセンティブ)を送るなどする時に回答者の名前や住所などを記入させる場合があります。
しかし回答者側からすれば、書いた人が自分だとわかってしまうと何とも本音が書きづらくなってしまうものです。

また逆に質問者側のブランド名が記載されていると、そのブランドに対する不満などが書きづらくなりますよね。

基本的には回答者の記名は不要にし、かつ質問者側の名前も公開しない方がよいです。

もしどうしても記載する必要があるのならば構いませんが、ある程度のバイアスが働くことは認識しておく必要があります。

 

まとめ:アンケートって実は心理学的要素が多い

このようにアンケート調査には回答者の心理をきちんと理解する必要があります。
『アンケート調査には統計学が必要!』と考える方も多いと思いますが、長年リサーチに携わってきた経験からすると、調査設計には統計学よりも心理学の方が重要です。

もっと言えば、統計学は調査実施後に高度な分析をやる時のみ必要です。
以前も他のブログで申しあげましたが、普通に分析するだけなら四則計算ができれば全然大丈夫です。

アンケート調査のきちんとしたノウハウを学びませんか。

アンケート調査で正確な結果を出し、次のアクションに繋げる為には他にも重要な点がたくさんあります。アンケートは『設計』が必要不可欠なのです。

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