【今更聞けない!?】セグメンテーションとは?からSTP分析の方法までを徹底解説


マーケティングリサーチャーの渡邉俊です。

今日は『STP分析』についてお話します。
・・・と言うと、マーケティングをご存知の方であれば『今更そんな基本的な事をブログに書くの?』と思われるかもしれません。

その通りで、今やマーケティングにおいてSTPというのは基本のキですよね。

ただ、私が初めて会う方とビジネスについて話をすると、STPという言葉をご存じない方、または知っていてもよく分かっていない方が数多くいるというのも事実です。

そこで今日は、マーケティングの教科書を開けばおそらく最初の方に書いてある事であろう『STP』について徹底的に、そして”日本一分かりやすく”解説したいと思います。

“日本一分かりやすく”というのは僕のチャレンジです。

・そもそも『STP』という言葉を知らずにビジネスをやっている方
・言葉は知っているが、何のことやらよくわからない方
・『STP』がビジネスで重要だという事は知っているが、なぜかを説明できない方
・『STP分析』が重要なのは知っているが、どうすればいいのかわからない方

は是非読んで下さい。
上記以外の方は読まなくて結構です(笑)

 

時代は『作れば売れる』から『作っても売れない』へ

自動車を作れば売れた時代

まず、なぜSTPという概念が生まれたのかを日本における自動車市場を例にお話したいと思います。

日本に初めて自動車というものが登場したのは1898年(明治31年)。
あるフランス人が持ち込んだ「パナール・ルヴァッソール」という自動車が、日本を走った初めての自動車だそうです。

banar

ただ、昔はごく限られた富豪でないとクルマを持つなんてできず、一般市民が自動車を所有できるようになったのはそれよりずっと後。
1958(昭和33年)にスバル360、1966年(昭和41年)はトヨタ:カローラや日産:サニーなどの大衆車が発売され、このあたりから自動車が急激に普及していきました。

それまで、人間の移動手段と言えば徒歩、自転車、公衆バス。
マイカーに乗って自由自在に移動するという事が画期的なことでした。

その為、アクセルを踏めば加速してブレーキを踏めば減速、ハンドルを切れば曲がる。
これさえ満たしていれば人々は満足だったのです。

ただ自動車を作っただけでは売れない時代へ

しかし。
マイカーでの移動が一般市民にとってほぼ当たり前になると、上記の様に『走る、止まる、曲がる』だけでは物足りなくなってきます。

自動車の運転がうまい人は『少しでも走行性能の良い』クルマに乗りたいと思うようになり、
自動車に乗りたいけどお金をかけたくないという人は『小さくて燃費の良い』クルマに乗りたいと思うようになり、
子供がたくさんいる人は『家族全員が一緒に移動できる』クルマに乗りたいと思うようになり。

自動車という商品に対して、色々な注文を付けるようになってきます。
いわゆる『ニーズの多様化』ですね。

こういった状況になると、自動車を『単に作れば売れる』時代ではなくなり、1つの商品でお客様全員のニーズを満たすことはできなくなります。

その為、
①『自動車』にどんなニーズがあって、また各ニーズの規模がどれくらいなのかを把握し、
②どのニーズのお客様に向けて商品を作るのかを決め、
③そのニーズに応え、かつ競合と住み分けるにはどうするかを決める

ことが必要になります。

要するに、①がセグメンテーション、②がターゲッティング、③がポジショニングなのです。

STP分析とは何か?

『STP』とはマーケティングで権威であるフィリップ・コトラーが提唱したものであり、新商品やサービスを展開するにあたり重要な3つの観点です。

S:Segmentation(セグメンテーション)・・・市場の細分化
T:Targeting(ターゲティング)・・・狙うべき市場の決定
P:Positioning(ポジショニング)・・・自社の立ち位置の明確化

要するに、自分がビジネスを展開する市場を細かく分類して、その中のどれを狙うか決めて、そこでの自分の立ち位置を決めるという事です。

Segmentation (セグメンテーション)

セグメンテーションは『市場の細分化』であり、その市場のお客様をニーズ別にグループ分けするということです。
それによってニーズ毎の規模を把握できると同時に、市場の全体像が理解できます。

また細分化したものを『セグメント』と呼びます。

これから自分の商品を投入する市場がアーチェリーの的だとしたら、『的のどこを狙うと何点なのかを明確にする作業』ですね。

『ここのニーズは規模が大きいから当たれば大きな収益(高得点)になるけど、こっちのニーズは規模が小さいから当たってもそれ程大きな収益にはならないな(低得点)・・・』という検討ができるような土台を作ることになります。

Targeting (ターゲティング)

市場をグループ分けしたら、『その的の中でどのグループを狙うのかを選定する』のがターゲティングです。
各グループのニーズと規模、競合のひしめき度合、自社の強み/弱みなどを判断材料にして決める必要があります。

『グループAを狙えば高収益だけど既に強いライバル達がいるし、かといってグループBを狙うとなると自社の技術レベルでは難しい。ここはグループCを狙うのが良いかな・・・』という感じの検討をして、最終的に狙うグループを決める訳です。

Positioning (ポジショニング)

ポジショニングは『自社と競合との位置関係を決める』ということです。

どのグループを狙うのかを決めたとしても、そこには既に競合が参入しているケースがほとんどですよね。
その為、自社の新商品やサービスを競合とどのように差別化して売っていくのか?(場合によっては競合と同じ戦略を取るという事もありえますが)を考える段階です。

ポジショニングは状況によって様々なケースが考えられますが、

・競合達はリーズナブルな価格で売り出しているから、うちは高級感を出すスタイルで行こう!
・A社とB社は商品のカラフルなラインナップが売りだから、我々の商品はシックなデザインにしようか?
・ライバルは機能の多彩さをアピールしているから、こっちは搭載する機能を絞ろうか?

などなど、競合と比べて自社はどんなスタイルを取るのかを検討する訳です。

アンケート調査でSTPを分析する方法

上記がSTPになります。
何となく概念を理解していただければよいのですが、ここまではマーケティングの本を買えば載っていますし、様々なサイトで説明されています。

問題は『内容はわかったけど、じゃあそれをどうやって分析すればいいのか!?』ということですよね。

正直申しあげると、STP分析は難しいです。
リサーチに関する専門知識とキャリアはもちろん、調査会社に委託するのであればそれなりの費用が必要になってきます。

その為、『ビジネスにはSTP分析が重要』と言っておきながら、そのやり方が詳しく記載されてない本やサイトを数多く見かけます。

従いまして、このブログでは具体的なSTP分析の方法を紹介します。

何を指標としてセグメンテーションするか?

まずセグメンテーション(市場の細分化)を行うと言っても、何を指標として細分化するの?という根本的な疑問があると思います。
これについては、マーケティングの本を見ると4つのやり方が載っています。

1.人口統計的変数・・・年齢、性別、家族人数など個々が持つ基本情報を基に分ける。
2.地理的変数・・・居住地域など、個々の地理的情報で分ける。
3.心理的変数・・・ライフスタイル、性格、商品の重視点など個々の心理情報で分ける。
4.行動変数・・・購入動機や頻度、購買パターンなど行動に関する情報で分ける。

どの指標を使うかについてはどんな商材を扱うかにもよるのですが、僕としては「3.心理的変数」で細分化するのが一番良いと思います。

“お客様の性格や商品の重視点、ライフスタイル”で細分化し、その結果を見てどの人達を自分のターゲットにするか決めるという事ですね。
後々、その方がターゲットにすべきかどうか判断しやすいですし、その為にどんな戦略で売るのかを想像しやすいのです。

アンケート調査方法と条件

今回は事例として、以前ランドセル市場のお客様を「購入検討時の重視点」でセグメンテーションし、ターゲティングした工程をご紹介します。

やることはアンケートモニターパネルを用いたアンケート調査です。

セグメンテーションをする場合、その市場のお客様全体を俯瞰しなければいけません。
その為、ご自身が持つ顧客リストやSNSで調査を行うのではなく、お金はかかりますが市場全体を俯瞰できるアンケートモニターパネルを使う必要があります。

当時実施した調査の回答者条件は、

  • 性別、年齢、職業、居住地は特に問わず
  • 今年(調査した年度)にランドセルを購入(もしくは注文)した方

の両方を満たす方1000人にアンケートを取りました。

アンケートの設問項目

以下がアンケートの設問項目です。
(自由記述ではなく、全て選択肢を設定して回答いただきます。)

  • 回答者の性別、年齢
  • (ランドセルを購入した)お子様の性別
  • (ランドセルを購入した)お子様の居住地
  • 購入したランドセルのブランド名
  • そのブランドを選んだ理由
  • 購入ブランド以外で比較検討したブランド名
  • ランドセル検討時の重視点   

このうち、セグメンテーションに必要な設問は『ランドセル検討時の重視点』になります。
ご参考までにその設問文と選択肢を記載します。

Q:ランドセルを購入検討する際、以下の項目をどの程度重視されましたか。各項目についてあなたのお気持ちに一番近いモノを1つお選びください。(5段階評価)

1.デザイン
2.色(本体)
3.色(ステッチ、糸)
4.素材
5.価格
6.内容量
7.軽さ
8.頑丈さ(耐久性)
9.背負いやすさ
10.持ち運びのしやすさ
11.ポケットの多さ
12.鋲の形状
13.刺繍のかわいさ/カッコ良さ
14.手入れのしやすさ

アンケート結果の分析(セグメンテーション作業)

さて、上記のように調査設計をしてアンケートモニターパネルから回答を集め、集計・分析作業に入ります。
ランドセル市場を細分化して、どういったニーズを持った人がどの程度いるのか?を数値化するのです。

ただ、その為には『因子分析』『クラスター分析』という高度な統計分析が必要になります。
ここがSTP分析を難しくさせている部分です。
またエクセルで分析を行うのはかなり難しく、実施する場合はSPSSやRなどの多変量解析ツールが必要です。

しかしこれらの統計分析を使わずにSTPを行うのは難しく、とはいえ分析手法そのものを本気で解説すると100ページを余裕で超えるくらいの本が出来てしまうので、今回はエッセンスだけ記載します。
因子分析、クラスター分析をご存知ない方はとりあえず何をやっているのかについて雰囲気を掴んでください。

因子分析で潜在ニーズを探る

『因子分析』とは、アンケートで観測されたデータから、その背後に潜む共通因子を探る方法です。

これを使って、回答者(=市場のお客様)が持っているランドセルに対する潜在的なニーズを探ります。
具体的には、先ほど紹介した「ランドセル検討時の重視点」の各項目の『因子負荷量』という数値を求め、『共通因子』を探っていくのです。

ご参考に、その結果が以下です。

inshi-fuka

この結果は、ランドセルのお客様を俯瞰すると全体的に6つの潜在ニーズがある(因子1~6)という事を示しています。

例えば因子1を見ると、『背負いやすさ』、『持ち運びのしやすさ』、『ポケットの多さ』、『内容量』の因子負荷量が大きいですよね。

これは要するに、この4つの重視点に共通するニーズ(因子1)が背後に潜んでいるという意味です。

ここからはデータから想像しなければならないのですが、この4つの重視点を考慮すると背後には『実用性重視』という共通因子があるのではないでしょうか。

また因子2は『色(ステッチ、糸)』、『鋲の形状』、『刺繍のかわいさ/カッコ良さ』から『デコレーション重視』という共有因子を想像できます。

という形で共通因子を書き出していくと、

因子1:実用性重視
⇒『背負いやすさ』、『持ち運びのしやすさ』、『ポケットの多さ』、『内容量』

因子2:デコレーション重視
⇒『色(ステッチ、糸)』、『鋲の形状』、『刺繍のかわいさ/カッコ良さ』

因子3:見た目重視
⇒『デザイン』、『色(本体)』、『素材』

因子4:重さ重視
⇒『軽さ』

因子5:耐久性重視
⇒『頑丈さ』

因子6:安さ重視
⇒『価格』

と、ランドセル市場のお客様の潜在ニーズを6つ抽出できたことになります。

クラスター分析でニーズグループを作る

先程の因子分析で潜在ニーズを6つ抽出しましたが、これら共有因子でクラスター分析を行うことにより、市場のお客様をグループ分けします。

クラスターとは英語で『集団』、『群れ』という意味であり、上記6つの潜在ニーズを使って似通った市場のお客様を集めて塊にしていくという事になります。

クラスター分析の詳細も別のブログで解説しますのでここでは割愛しますが、計算を行うとクラスタ重心という数値がアウトプットされます。

この値がプラスに大きければその潜在ニーズが強く、マイナスに大きければ弱いという事です。

cluster1

そしてこの値から、各クラスタの特徴を掴んでいきます。

クラスタ1:『我が子の為に一切妥協しない』タイプ (市場全体の30.2%)

価格は特に気にせず実用性、見た目、耐久性を重視するというお客様です。要するに何かを妥協することはなく、「これが最高のランドセルだ!」と思った品物を我が子に与えたいという親心満載のタイプです。
このクラスタ1と後述のクラスタ3で全体の約6割を占めており、二大勢力の1つと言えます。

クラスタ2:『通学の負担を極力減らしたい』タイプ (市場全体の14.9%)

ここ最近、小学生の腰痛が問題となっています。原因は通学に持っていく荷物が多いことにあり、その為少しでも軽いランドセルを買いたいというお客様が増えています。このクラスタはそういったお客様でデザインや色、デコレーションはあまりこだわらず、軽さを最重要事項にしているタイプです。

クラスタ3:『安いに越したことは無い』タイプ (市場全体の30.3%)

価格以外こだわっているモノが見当たらず、実用性度外視でただただ安いものを探しているタイプです。クラスタ1と同じくらい規模が大きく、二大勢力の1つと言えます。

クラスタ4:『見た目が全て』タイプ (市場全体の18.4%)

かなり極端ですが、デザインや色、素材といった『見た目』のみを重視して実用性やその他の要素は一切こだわらないタイプです。確かにひと昔前のランドセルは『男の子は黒、女の子は赤』と2つの色がメインでしたが、最近は青やブラウン、ピンク、キャメルなどカラーバリエーション豊富です。また素材も人工皮革以外にコードバン(馬革)、牛革なども多く売られています。

クラスタ5:『デコ大好き』タイプ (市場全体の6.2%)

一番規模が小さいニーズグループなので少し特殊なのかもしれませんが、刺繍や鋲といったランドセルのデコレーションにこだわるタイプです。最近ではハートマークの鋲やカッコいい刺繍などを施したランドセルがありますので、こういった品物を好むお客様もそれなりにいるという事です。

 

このように、『ランドセル検討時の重視点』をベースにランドセル市場を5つに細分化する事ができました。

ニーズグループを見てターゲティングする

さて次にやらなければいけないのが『ターゲティング(Targeting)』です。
市場細分化をしたら、どの市場を狙うのかを決めなければいけません。

ただやることはそれほど面倒ではなく、要するに自分(自社)の強みと今あるデータを見て狙いどころを決めるだけです。

例えば先ほどのランドセルの調査で、回答者が実際に購入したランドセルのブランドを答えてもらっているので、これを集計すれば『各クラスタのブランド別シェア』を計算する事ができます。

それを基に検討すると、あくまで例ですが、

クラスタ1:『我が子の為に一切妥協をしない』タイプ
規模は大きいクラスタだが、老舗工房系である3つブランドがシェア上位を占めており、それ以外にも多くのブランドが参入している。これから参入しても勝ち目は見込めない。

クラスタ2:『通学の負担を極力減らしたい』タイプ
特に大きなシェアを持っているブランドはない。また重さに関してはどのブランドも大差なく、極端に軽いランドセルを作っているブランドもない。

クラスタ3:『安いに越したことは無い』タイプ
大手ランドセルメーカー数社の大量生産により安めのランドセルを多数販売している。参入はかなり厳しい。

クラスタ4:『見た目が全て』タイプ
こちらも複数の有名工房系ブランドが豊富なカラーラインナップと天然皮革で商品展開している。自社は知名度や信頼度の観点で劣る。

クラスタ5:『デコ大好き』タイプ
大きなシェアを持っているブランドはなく、またデコレーションに力を入れているメーカーも現時点ではない。

ということが分かれば、狙いどころはクラスタ2、またはクラスタ5と定められるのではないでしょうか。

自分のビジネス市場を数字で語れると強い!

いかがでしょうか。
ターゲティングまでできたら次は『自社と競合との位置関係を決める』(ポジショニング)という作業に移るのですが、それについては別のブログでお話します。

ですが、初めてSTP分析を行う方にとっては、このSとTだけでも新しい知見が多く得られると思います。

特にS(セグメンテーション)を行うと、自分が参入している市場はどの位の規模で、どんなニーズグループがあって、各グループの規模はどの位で・・・と数字で市場を語れるようになると戦略を立てやすくなります。

先程申し上げた通り、きちんとSTP分析を行うのであれば有料のアンケートモニターパネルを使用して調査を行う必要がありますが、かかるコスト以上の知見は得られると思いますので1度チャレンジしてみて下さい。

またどの市場も時間と共に変化します。
全体の市場規模はもちろん、各ニーズグループの規模も変化しますし、新たなニーズグループが出現する可能性もあります。

その為、できればこの調査は定期的に行うことをお勧めします。

 

Lactivatorの動画講座を『Udemy』で配信中!




Lactivatorが定期的に開催しているマーケティングリサーチの講座が、オンライン学習サービス『Udemy』に登場!

1つの単元を約10分前後の動画で解説しているので、通勤途中でもカフェでも、あなたの好きな時間に好きなだけリサーチを学ぶことができます。

最初の10分は無料で視聴いただけますので、是非ご覧ください!


講座はこちら↓

◎マーケティング戦略立案に必須!事例とワークで学ぶ『マーケティングリサーチ(市場調査)』の基礎:定量調査(アンケート)編

◎マーケティング初心者が最強戦略を創る為に必要なたった1つのこと~『消費者インサイト』の重要性~

 

関連記事