思い込みでなくデータを基に世界を正しく見る~『FACTFULNESS』から学ぶ~

マーケティングリサーチャーの渡邉俊です。

先日、『FACTFULNESS』という本を読みました。
世界でも100万部の大ベストセラーとなっていてビル・ゲイツ氏も絶賛している本なので、既に読んだ方も多いのではないでしょうか。

この本、マーケティングに携わる方やデータを取り扱っている方にとっては大変興味深い内容だと思います。
要するに、人間は思い込み(先入観)で物事を捉えてしまう事が多く、その結果間違った判断をしかねないという事を本の中で述べているのです。

僕も自分のセミナーの中で、『先入観に捕らわれてビジネスを行っている人が多い!』という話をよくします。
ですがこの本曰く、それは政治などもっと大きな世界を見ても同じなんだとか。

今日はそれについてお話しします。

『FACTFULNESS』の中身をザクっと紹介

人間の判断を狂わせる10の本能(思い込み)

まず、『FACTFULNESS』の本に書かれている事を大まかに紹介すると、
(細かく紹介するとネタバレになってしまうので、あくまで大まかにです。)

人間には10の本能(思い込み)が存在し、それが各々の判断を間違った方向に進めてしまうことが多々あるという事です。
具体的には以下の10の本能になります。

1.分断本能・・・「世界は分断されている」という思い込み

2.ネガティブ本能・・・「世界はどんどん悪くなっている」という思い込み

3.直線本能・・・「世界の人口はひたすら増え続けている」という思い込み

4.恐怖本能・・・危険でないことを恐ろしいと考えてしまう思い込み

5.過大視本能・・・「目の前の数字が一番重要だ」という思い込み

6.パターン本能・・・「ひとつの例が全てに当てはまる」という思い込み

7.宿命本能・・・「全ては予め決まっている」という思い込み

8.単純化本能・・・「世界はひとつの切り口で理解できる」という思い込み

9.犯人捜し本能・・・「誰かを責めれば物事は解決する」という思い込み

10.焦り本能・・・いますぐ手を打たないと大変なことになる」という思い込み

 

世界の人口の何%が低所得国に住んでいるか?

そしてこの本では10の本能(思い込み)を理解させる為、読者に対してたくさんの問題を出しています。
そのいくつかを紹介しますね。

世界の人口の何%が低所得国に住んでいると思うか?
A) 59%
B) 32%
C)  9%

ここで言う『低所得国』というのは、国民の1日の平均収入が2ドル以下の国を指しています。

そしてもう1つの質問。

低所得国に暮らす女子の何%が初等教育を修了しているか?
A) 20%
B) 40%
C) 60%

いかがでしょうか?
おそらく、両方の質問ともに『A』と答えた人が多いのではないでしょうか。
実は残念ながら、それが「思い込み」な訳ですね。

正解は両者とも『C』です。

実は現在の世界統計データによると、国民の1日の平均収入が2ドル以下である国は世界全体のわずか9%であり、そしてその9%の国でさえ、60%の女の子が初等教育を受けている事が分かっています。

我々は昔から、世界には国民平均所得が著しく低い国が多く存在し、そういった国々では特に女子の教育水準が低いと教えられてきました。
そしてそれは今でも変わらないと思ってしまいがちです。

先程の10の本能の中の『1.分断本能』ですね。
世界は高所得国と低所得国に分かれているいう思い込みです。

しかし実際には21世紀に入ったこの20年間で世界情勢は大きく変わっており、低所得国も経済発展が進んで、国別の所得差はかなり小さくなっているのです。

 

『思い込み』をデータで書き換える

上記は本の中に出てくる質問の一例です。

要するにこの本が言っているのは、
世界情勢だけでなく我々の生活やビジネスも『思い込み』で支配されており、正しい判断をする為にはきちんとしたデータを見て『思い込み』を書き換える事が重要だという事です。

しかしインターネットなどが出現したことによって、現代人が1日に接触する情報量は江戸時代の頃の人の100倍、平安時代の頃の人の1000倍だと言われています。

であるならば、我々が持っている『思い込み』は日々の情報によって常に更新されてもいいのでは?と思われるかもしれません。

ただ、人間の思い込みってその人自身が意識しないと払拭できませんし、もっと言えば情報を流している人も『思い込み』を持っています。
従いまして、そう簡単に更新できるものではないのです。

 

事例)高齢者の交通事故が増加している?

僕がこの本を読んで最初に頭に思い浮かんだのが、昨今国内で問題視されている『高齢者ドライバーによる交通事故の増加です。

テレビのニュースではアナウンサーが『またもや高齢者ドライバーによる事故です・・・』という枕詞で頻繁に報じられていますよね。
また新聞やネットニュースでも、『なぜ高齢者による交通事故は増え続けるのか?』なんて記事をよくみかけます。

このような報道を毎日のように目にしていると、『日本では高齢者ドライバーによる交通事故がうなぎ上りで増加している』という風に誰もが思ってしまいます。

ですが、これは本当でしょうか?

これについては平成30年2月に警察庁交通局からデータが発表されています。

ドライバーの年齢層別死亡事故件数

まず、以下のグラフは運転者の年齢層別の死亡事故件数(免許人口10万人当たり)です。
これを見ると、75歳以上の運転者による死亡事故件数(平均7.7件/10万人)は、75歳未満の運転者による件数(平均3.7件/10万人)よりも多い事がわかります。

出典) 警察庁交通局 『平成29年における交通死亡事故の特徴等について』(平成30年2月15日)

年齢層別運転免許保有者数の推移

更に以下は75歳以上と80歳以上の運転免許保有者数の推移ですが、年々増加していて、平成19年の倍近くの数となっています。
高齢者人口が増加しているのですから、それに比例して増えている訳です。

出典) 警察庁交通局 『平成29年における交通死亡事故の特徴等について』(平成30年2月15日)

免許人口十万人当たりの死亡事故件数推移

ここまでのデータを見ると、

●75歳以上の高齢ドライバーは、75歳未満のドライバーと比較すると死亡事故が多く発生している。
●75歳以上の免許保有者数は増加している。

⇒だから、今後も高齢ドライバー(75歳以上)による死亡事故が増える。

という三段論法が成立するように見えます。

ただ一方で、警視庁は以下のようなデータも公開しています。

 

出典) 警察庁交通局 『平成29年における交通死亡事故の特徴等について』(平成30年2月15日)

要するに免許人口10万人あたりでいうと、75歳以上でも80歳以上でも死亡事故件数は下がっています。

ということは、これらのデータから75歳以上のドライバーが何件の死亡事故を起こしたか計算してみると、

【平成19年】
283万人 (免許人口) × 15.1件/10万人 (死亡事故発生件数) = 427件

【平成29年】
540万人 (免許人口) × 7.7件/10万人 (死亡事故発生件数) =416件

となるので、10年前(平成19年)と比べると死亡事故件数は微減していることになります。

この減少している理由は調べてみないと分かりません。
おそらくこの10年間でクルマの自動ブレーキなどの技術は著しく発達しているのは事実ですので、そういったものが影響していると考えられます。

もちろん、高齢者が年間400件以上の死亡事故を起こしている事は事実であり、これを減らしていく努力は必要だと思います。
ただ、『高齢者ドライバーが増加していることによって死亡事故が著しく増加している』というのはFACTFULNESSに書かれている「2.ネガティブ本能(世界はどんどん悪くなっているという思い込み)」であるとは思いませんか?

高齢者ドライバーの存在自体を悪の根源として書いているような記事もあるのですが、データを見るとそんなことはないのです。

 

まとめ

いかがでしょうか?

先程も申し上げましたが、僕たちが1日で目にする耳にする情報は平安時代の1000倍、江戸時代の100倍だそうです。
但しそれらの情報の全てが正しいとは言えない訳で、『思い込み』を持った人間が『思い込み』のまま情報を流し、そしてそれを正しいと『思いこんでいる』可能性は極めて高いです。

『気になる事はきちんとデータでチェックする。』

シンプルだけど超重要です。

 

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