マーケティングリサーチの学び場『Lactivator』代表。自動車会社でマーケティングリサーチに従事後、誰でも気軽にマーケティングを学べる場として2012年に本サイトを開設。また故郷:群馬県の活性化の為、2013年より上毛かるたの日本一決定戦『KING OF JMK』を主宰。著書『上毛かるたはカタル』も発売中。
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こんにちは、マーケティングリサーチャーの渡邉です。
今回は『需要予測』についてお話ししたいと思います。
ビジネスをやっていると、特に新商品をリリースする前などは「この商品を世に出したらどのくらい売れるのか?」が気になったりしますよね。
これによってコストや人員配置を決める事もあるので気になるのはごもっともなのですが、精度よく需要を予測するのはかなり難しいです。
従いまして今回は、需要予測をするのに知っておいて欲しい事をいくつかまとめています。是非読んで下さい。
アンケートで需要予測する一般的な方法
購買意向調査
アンケートで需要予測をする際、一般的に行われるのは『購買意向調査』と呼ばれるものです。
商品に関する情報(コンセプトやパッケージ、価格など)を見せたり、実際に商品を使用いただいたりした後に、
Q:あなたはこの商品を購入したいと思いますか?」
1. とても思う
2. 少し思う
3. どちらともいえない
4. あまり思わない
5. 全く思わない
のような設問にアンケートで回答してもらい、「とても思う」と「少し思う」の割合から需要を予測するというやり方です。
但し、実はこのやり方では正確な需要予測ができないことが多くの業界で分かっています。
このアンケートで聴取した購買意向の数値と実際の売上とは、ほとんど相関しないのです。
需要予測の失敗事例
需要予測というのは『未来を予測する』訳ですから、言葉にするのは簡単なものの実際にはそうはいきません。
これまで多くのマーケッターが様々な業界の需要予測に挑戦し、失敗してきました。
一番有名な失敗が1985年にコカ・コーラが発売した「ニューコーク」です。
1970年代後半にコカ・コーラのシェアが徐々にペプシに奪われていた当時、何とかしてペプシに勝てる商品を作ろうと模索していました。
そこで計20万人にブラインドテスト(目隠しをしてお客様に味を評価してもらうテスト)で新商品案とペプシを飲み比べてもらい、その結果から改良に改良を重ねて「ニューコーク」ができました。
しかし、残念ながらニューコークは全く売れなかったのです。
同じような事例は国内にもあります。
マクドナルドが新商品を開発する為にお客様にアンケート調査を行った結果、「ヘルシーなハンバーガーが食べたい」という回答を数多くもらいました。
そこでマクドナルドは「サラダマック」という低カロリーの商品を2006年に発売したのですが、結果はほとんど売れませんでした。
このような失敗事例は挙げればキリがなく、『マーケティングリサーチなんて信用できない!』と考える経営者がでてきてしまう原因でもあります。
事前の調査で「ほしい!」という好意的な意見をもらっていても、実際にそれを発売すると売れないということはよくあるのです。
顧客の声を元にした商品作りは大事なのですが、それを鵜呑みにすると痛い目に合う訳です。
なぜ需要予測は失敗するのか?
なぜコカ・コーラやマクドナルドという世界的な大企業までもが需要予測を失敗するのかというと、理由は色々あります。
『購入』に影響するのは商品の質だけではない
お客様が「欲しい!」と思っていても購入しないことは多々あります。
手に入れたい商品なのに売っている店舗が家から遠かったり、または値段が高くて『やっぱり辞めよう・・・』と思ったり。
また購入意向調査ではその商品の仕様や機能を100%知ってもらった状態で買いたいかどうかを聴取していますが、実際にはターゲットとするお客様全てがその商品のことを100%知っているなんてことはあり得ないですよね。
その商品の広告投入量にもよりますし、また消費者の頭の中に残るような広告もあれば、全く響かない広告もあります。要するに広告の質の問題です。
従いまして、精度の高い予測をするのであれば上記のような広告量や質、販売店舗数なども考慮しなければいけません。
需要予測はかなり高度なテクニック
とはいえ需要を予測するには、アンケートなどの『顧客の声』の定量データが基になります。
但し、上記のように単純に『欲しい』と答えた人が何人いたかで予測するのではなく、このデータに様々なパラメータ(係数)を入れ込んでいく必要があります。
どんなパラメータを入れればよいかは業界や商品によって異なるので、一概に『これを係数にする!』とは言えません。
試しにあるパラメータで計算をしてみて、計算結果と実績と比較してみて、予測に乖離があったら別のパラメータを当てはめてみる・・・という感じでトライアンドエラーを繰り返すことで需要予測の精度を上げていくのが通常です。
このような作業を統計学では『モデリング』と言います。
自分の業界の需要予測に一番適した数式モデルを探り当てていくという作業ですね。
結論からすると全然簡単ではないのです。
ポイントは他社購入予想(客観視)
とはいえ上司から需要予測をしろと言われてるんだ!という方に1つアドバイス致します。
2016年に大阪経済大学が発表した研究結果によると、自分自身がその商品を購入したいと思うか?という『自己購入意向』を聞くよりも、他者からの人気はどのくらいあると思いますか?という『他者購入予想』の設問の方が、実際の売上と高い相関があることが示されています。
具体的には以下のような設問です。
以下の中で、一番人気のある商品はどれだと思いますか?
1.商品A
2.商品B
3.商品C
4.商品D
5.商品E
ここから得られるデータを基に需要予測をすると、ある程度精度を上げる事ができるはずです。
これはマーケティングに限りません。
例えば恋愛で『自分は意中の人と結ばれるか』と自分のことを予想するよりも、『おそらくあの人とあの人は結ばれるな・・・』と他人の予想をする時の方が当たる確率が高くないですか?
このように『客観視』して物事を見る時の方が精度は高くなるのです。
まとめ
需要予測は『未来を予測する』ということなので、そう簡単にできることではありません。
もちろん実施する為にはアンケート調査を主としたリサーチデータが必須になってくるのですが、単純に『購入したいと思うか?』の質問だけで予測するのはかなりリスクが高いです。
精度の良い予測をする為には色々とハードルがあるのですが、まずは他者購入予想(客観視)の設問をベースに行ってみて下さい。