マーケティングリサーチの学び場『Lactivator』代表。自動車会社でマーケティングリサーチに従事後、誰でも気軽にマーケティングを学べる場として2012年に本サイトを開設。また故郷:群馬県の活性化の為、2013年より上毛かるたの日本一決定戦『KING OF JMK』を主宰。著書『上毛かるたはカタル』も発売中。
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こんにちは、マーケティングリサーチャーの渡邉です。
今回は『トレンド予測』についてです。
どんなビジネスでも『近い将来何が起こるか?』をいち早く予測できた方が得です。その起こりうる事象に対してライバルよりも早く準備ができるからですね。
そのトレンドを予測できなかった為にビジネスチャンスを掴めず、次第に衰退していった企業だって数多くあります。
しかし当然のことながら、未来を予測するのって難しいです。とはいえ、方法がない訳ではありません。
そこで今回は、優秀なマーケッターはどうやってトレンドを予測しているのか?について基本となる考え方を紹介します。
そもそも”トレンド”とは何か?
『風が吹けば桶屋が儲かる』
『風が吹けば桶屋が儲かる』ということわざを御存知でしょうか?
これはある出来事が起こった事により、一見何も関係がないと思われる物事に影響が及ぶことの例えです。
なぜ風が吹くと桶屋が儲かるのかというと、
●大風が吹くと砂埃が立ち、盲人など眼病疾患者が増加する。
↓
●盲人が三味線を生業とする為、三味線の需要が増える。
↓
●三味線製造に使う猫の皮が必要となる。
↓
●猫を多数捕獲する為、鼠が増加する。
↓
●鼠が家にある桶をかじる為、桶を買う人が急増する。
↓
●桶屋が繁盛する。
という感じです。あくまでことわざなので誇張し過ぎな感じもしますが(笑)。
しかしこれが本当だとして、もし大風が吹いた時に『よし!近々桶がたくさん売れるはずだから、たくさん作ろう!』と予測出来たらすごいことですよね。
これがトレンド予測です。
トレンド=時代の”流れ”の中で起こる現象
トレンド(trend)とは直訳すると『流行』や『潮流』のことを指します。
どちらにも『流』という感じが入っている通り、要するに『時代の流れの中で起こる現象』の事を示します。
マーケティングのみならず、経済の動向や為替の値動きなどをトレンドと表現しますよね。
例えば今この記事を書いている2022年11月現在、日本は1ドル=150円と記録的な円安だと言われていますが、この円安が起こった原因はある程度説明できます。
●新型コロナウィルスがひと段落したことで欧米では様々な商品の需要が増加。
またロシアのウクライナ侵攻により食料品やエネルギーの供給が減少。
↓
●欧米各国が記録的なインフレ状態となる。
↓
●その為、欧米各国の中央銀行が政策金利の利上げを実施。
↓
●日本はまだデフレから脱却できておらず、またインフレも欧米ほどではない為、利上げせず。
↓
●欧米と日本の金利差が広がり、投資家は円売りドル買い(ユーロ買い)をする。
↓
●結果、円安ドル高(ユーロ高)の状態となる。
という感じです。
こんな風に、一連の流れの中で起こっている現象のことを『トレンド』と言うのです。
『トレンド』と『ブーム』の違い
一方でトレンドと似た言葉で『ブーム(boom)』というのがあります。
これは時代の流れとは関係なく、『偶発的に人気や話題になった爆発的な現象』のことを指します。
“boom”という言葉自体、和訳すると”ドーン!”とか”ドカーン!”といった爆発を表す擬音語なのです。
例えば2016年頃に大人気となったピコ太郎さんの『PPAP』や2019年頃の『タピオカミルクティー』、またもっと時代を遡れば『エリマキトカゲ』や『ウーパールーパー』、更に遡れば『ダッコちゃん』・・・などなど様々なブームが日本に巻き起こりましたよね。
しかし、なぜこれらの商品や動物はいきなり人気になったのか?と言われると、先ほどの円安の例のように論理的に順序だてて説明できないのではと思います。
このようになぜ急に起こったのか説明できない爆発的な人気や話題の事を『ブーム』と呼びます。
『ブーム』ではなく『トレンド』を追う
従いまして。
マーケティングに携わる者としては、予測不可能な『ブーム』を追うのではなく、ある程度先のことを予測できる『トレンド』を読んで戦略などを立てるべきです。
『PPAP』や『タピオカ』が出てくる前、これらが日本でブームになると予測した人は天才的な直観力を持つ人を除けばまずいないと思います。
但しトレンドは一連の流れで起こる事なので、当たるかどうかはさておき『次はこうなるんじゃないか?』と予測することが可能です。
『ブーム』ではなく『トレンド』を追う事がマーケティングの使命なのです。
『トレンド』予測の基本となる2つの方法
となると、次に『トレンド』ってどう予測すればよいのか?という話になります。
この辺りはそのマーケッターの経験とセンスがカギ・・・と言ってしまえばそれまでなのですが(笑)、おそらくそんな優秀なマーケッターの頭の中では『帰納(きのう)法』と『演繹(えんえき)法』を繰り返して『次はこうなる!』と予測しているはずです。
従いまして、ここでは帰納法と演繹法についてご紹介します。
帰納法的予測= 複数の事象から”トレンドの主流”を見極める
帰納法とは、『複数の事象から導き出される共通点をまとめて結論を出す方法』です。
これをトレンド予測では、『現在起こっている様々な事象をまとめて時代の”主流”を導き出し、そこから想像できる次の事象を出す』という風に使います。
例えば、『アメリカで小麦の需要が伸びている』、『中国で小麦の需要が伸びている』、『日本で小麦の需要が伸びている』という3つの事実があったら、これらの共通点から『世界的に小麦の需要が伸びるのでは?』と想像しますよね。
これが帰納法を使ったトレンド予測です。
上記はちょっと簡単すぎますが、例えば以下はここ10年間に日本で起こった事象です。
皆さんはこれらの現象の共通点は何でしょうか?
① Webの発達による旅行ガイドブックの売上冊数減
② YouTubeによる芸能人の結婚報告や不祥事に対する謝罪
③ SNSを使った政治家の選挙活動解禁
これらから共通して言えるのは、『インターネット技術の拡大により中間情報業者の介入が無くなってきている』と、私自身は読みました。
まだインターネットが無かった頃、旅行でどこに行くか、どのホテルに泊まるかの情報源はガイドブックのみでした。
しかしガイドブックに掲載できる量は限りがありますから、そこに出て来ないホテルや旅館はお客さんの目に留まる事が少なかった訳です。
インターネット拡大以降はホテルや観光施設などが独自のサイトを持つようになり、また「じゃらん」や「楽天トラベル」などWeb予約サイトの出現により、たくさんのホテルや旅館を横並びで比較することができるようになりました。
また昔は芸能人や政治家が何か発表したり、自分の想い・主張を語ったりする時にはテレビや新聞などのマスメディアを介して行っていました。しかし現在はYouTubeやTwitterなどのSNSを使えばその人本人が直接ファンや有権者に発表できてしまいます。
つまり、『インターネット技術の拡大により、ガイドブックやテレビ、新聞などの”中間情報業者”の介入が無くなってきている』という共通点が導き出されます。
となると今後もその波は更に拡大して、情報を仲介する業者の需要が縮小していくのでは?と予測できる訳です。
演繹法的予測=今起こっている事実から時系列で未来を辿る
次に演繹法ですが、これは『複数の事象を足し合わせて結論を出す』という考え方です。
これをトレンド予測では、『現在起こっている事象を出発点として、そこから想像できる事象を時系列で並べる』という感じで利用します。
●現在Aが起こっているので、次にBが起こるはず。
●Bが起こればCが起こるはず。
●Cが起こればDが起こるはず。
従って現在Aが起こっているので、近い将来Dが起こるはず・・・といった具合です。
要するに最初に取り上げた『風が吹けば桶屋が儲かる』は、まさに演繹法的なトレンド予測です。
例えば近年少子化が話題になっていますが、これが更に進むと日本の『ランドセル業界』は近い将来どんな風になると予測できるでしょうか?
これはあくまで予測の例ですが、
●少子化が進むと、ランドセルメーカーの売上が減少する
↓
●売上が減少すると、ランドセルメーカーが子供以外を顧客ターゲットにする
↓
●大人向けのランドセルが商品化される
↓
●・・・
なんて風に考えられますよね。
(実際、既に大人用のランドセルは発売されていますが)
こんな感じで、Aが起こればB、Bが起こればCという風に時系列で予測できれば未来に起こる事がある程度想定できるのです。
トレンド予測の定番『PEST分析』
上記の通り、帰納法と演繹法をベースにした予測方法というのがトレンドを読む上での基本です。
そしてこれらを組み合わせて更にアカデミックに行うトレンド予測のフレームワークとして『PEST分析』というものがあります。
4つの側面から”トレンドの主流”を読む
PESTというのは対象とする業界に対して、
●Politics (政治面) ・・・法規制や規制緩和、国の政策や税制変更、政府や外交関係の動向 etc
●Economy (経済面) ・・・景気や経済成長率、為替変動、インフレ/デフレ、失業率 etc
● Society (社会面) ・・・世論や社会の意識、人口動態、教育や文化に関する情報 etc
● Technology (技術面) ・・・技術革新、特許、企業の投資状況 etc
という4つの動向からトレンドの主流を見出す方法です。
例えば以下は、今後の『ビジネスマンの通勤スタイル』についてPEST分析を使ったトレンド予測です。
上記のように通勤スタイルについて予測をする場合、それに関連する現在の事象を政治・経済・社会・技術の4つの側面から洗い出します。そしてそれら4つから見えてくる未来の姿を考える訳です。
(上の図は分かりやすくする為に簡略化していますが、本来であれば予測に役立ちそうな事象をもっとたくさん洗い出し、4つの側面に振り分けます)
上記の場合、コロナにより自動車の販売台数が減少、また感染予防の為に満員電車での通勤の懸念拡大、更には政府が自転車通勤を推進する認証制度を開始、乗り捨て可能なシェアサイクルビジネスの拡大・・・と、これらを総合して考えると、おそらく自転車通勤が今後拡大していくだろうなと予測できますよね。
こんな感じで政治・経済・社会・技術の動向から未来を見据えるのがPEST分析です。
結論ありきで予測しない
PEST分析は政治・経済・社会・技術という世の中の大きな流れから次に起こる事象を予測する為、説得力のあるトレンド予測を行う事ができます。
実際にトレンド予測をプレゼンする際などによく用いられるのはPEST分析です。
ただ1つ注意していただきたいのは、『結論ありきで予測しない』ということです。
例えば上記の場合、『今後は自転車通勤が流行る!』とプレゼンしたい為に、それに関連する政治・経済・社会・技術の情報だけを集めてきて表にする・・・なんて事はよくやってしまいがちです。
気持はとても良く分かるのですがそれだと予測した事にはなりませんし、逆に自転車通勤を阻害する事象が現在起こっていたとしてもそれらに目が行かなくなってしまいます。
結論は考えずに、まずは情報を集めてみましょう。
予測の精度を上げるには
上記がトレンド予測に使う基本的なフレームワークです。
しかしながら、おそらく複数の人に同じ情報を与え、同じフレームで予測をしたとしても、出てくるアウトプット(予測)は異なるでしょう。未来の予測って簡単ではないですから、その人の経験やスキルも精度に大きく影響するのです。
こればっかりは仕方のない事だと理解して下さい。
とはいえ上記を使えば単なる『カン』ではなく、ある程度論理的にトレンドを予測できるはずです。
まずは日々の世の中の動向を捕らえ、世界情勢が、または自分の業界がどうなっていくのかを予測する練習をしましょう。
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