プロのリサーチャーが『自由記述式』アンケートを全く作らないワケ


マーケティングリサーチャーの渡邉俊です。

今回のテーマは『自由記述式のアンケート』についてです。

僕自身がマーケティングリサーチに関するセミナーや相談などを受けていると、

『アンケート調査は自由記述式にした方が回答者の本音が聞けますよね?』

という質問をたまに受けます。
自由記述式というのは、質問に対して文章で回答してもらう形式の事を指しています。

正直言いまして、これはマーケティングリサーチというものをかなり誤解しています
実はプロのリサーチャーがアンケート調査をする際、自由記述欄を設けることはほとんどありません。
なぜならば、自由記述で本音を得るというのはかなり難しいからです。

今回はこれについて詳しく解説いたします。

 

プロが自由記述式アンケートをやらない4つの理由

繰り返しますが、マーケティングリサーチでは自由記述式アンケートというものはほとんどやりません。
もちろん、『最後に本商品についてご意見、ご要望がございましたらお書き下さい』という記述欄をアンケートの最後の方に設ける事はありますが、あくまでその1問くらいです。

もっといえば、その1問の記述結果の取り扱いも参考程度にとどめます。
その理由は以下です。

 

①そもそも回答者にとって記述は面倒くさい

人間にとって文章を書くというのは面倒くさいモノです。
これはご自身が記述式アンケートの回答を依頼された時の事を想像してもらえればわかると思います。

従いまして、『以下の欄にその理由を詳しくお書きください』なんて質問に対し、きちんと自分の思いを文章で書いてくれるなんて人は極々少数です。

事例として、以前僕が行った自動車に関するアンケート定量調査の中で、『なぜあなたはそのクルマを購入したのですか?』という質問を自由記述で答えてもらった時の結果です。

Q: 今回『商品A(自動車名)』を購入された方に伺います。なぜあなたは商品Aを選んだのですか。以下の空欄にその理由をお書き下さい。

A:
・営業マンに勧められて良いと思ったから
・何となくいいなと感じたので
・デザインがカッコ良くて気に入った
・乗ってみてしっくり来たから
・・・etc

こんな感じで、データとしてはいまいち使えない記述回答がほとんどではないでしょうか。

本当はどの回答者にも商品Aを選んだ理由があるはずです。

しかし自分が行動した理由や抱いている思い、考えを文章にするというのは回答者にとってかなり難しい作業です。
それをアンケートの中で何問も回答するというのは極めて面倒であり、適当に答えて終わりにしてしまう方がほとんどです。

 

②あなたが持つ課題意識を回答者は持っていない

他のブログでもお話ししているのですが、例えば自動車会社がお客様に対して

『今後あなたはどのような自動車(商品)が欲しいですか?』

とアンケートの中で聞いても一般の方は答えられません。
なぜならば、一般の方は『次はどんなクルマが欲しいかな・・・』ということを常日頃全く考えていないからですね。

自動車会社の方であれば、『次にどんなクルマを開発すべきか?』、『数年後にどんなクルマが流行るか?』という事を常に考えなければいけませんが、一般の方はそうではありません。

ですから、そのような質問を単刀直入にアンケートで回答してもらうのは無理があるのです。

次の商品開発に向けてお客様の意見から何かしらヒントを得たいのであれば、いくつかこちらで商品案(仮説)を作り、それを調査の中で聞いてみるというプロセスが必要です。

参考ブログ:

 

③アンケートは『数の論理』を活用する調査である

これも他のブログでお話ししていますが、アンケート調査の最大のメリットは『数(量)を計測できる為、判断材料として使いやすい』という点です。
A、B、Cと3つの選択肢の中でAが〇〇%と最も多かった!なんていう数値での結果はアンケート調査でないと分かり得ないものです。

しかし自由記述式では基本的に集計ができないので、それを使ってどう判断するのかという点が難しくなります。

ただ、最近ではテキストマイニングという方法で自由記述の回答を分析することもできます。
この方法の是非についてはこのブログの後ろの方で詳しく解説いたします。

 

④理由や想いを聴くのは『定性調査』が適切である

そもそも何かしらの理由や回答者が抱く思いなどを聴きたいのであれば、アンケート調査(定量調査)ではなくてインタビュー調査(定性調査)を行うべきです。
インタビュー調査の方が質問を重ねる事によって深堀できるので、その人の深層心理に迫ることができます。

但し、定性調査はかなりのリサーチスキルやノウハウを必要とする為、かなり難しいです。
実施するのであれば調査会社などに依頼するのが一番良いかと思います。

※マーケティング調査には一般の方が誤解している点が多々あります。そのポイントを以下の無料メール講座にまとめていますので、この機会に是非ご購読ください。購読登録された方全員にアンケートやインタビューの調査設計チェックシートをプレゼントしてます。

 

『テキストマイニング』はアンケート分析に有効?

上記で少し触れましたが、自由記述式のアンケートでは時折『テキストマイニング』という手法を使って分析を行う事があります。

 

『テキストマイニング』とは?

テキストマイニングとは文字列(テキストデータ)を対象としたデータ分析手法です。

一般的には膨大な文字列や文章を単語や文節に区切り、それぞれの出現頻度や出現の傾向、単語間の関係性などを解析することで何らかの情報を取り出すやり方です。

最近では、

・コールセンターにおけるお客様とオペレータのやり取り
・インターネット掲示板での書き込み
・口コミサイトやSNS上の記事

などのテキストデータが重要視されています。

これらはその時々の市場の状況や消費者の思いを表しているので、テキストマイニングによってこれらの中から有益な情報を抽出すれば効果的なビジネス施策に結び付けられる可能性があるのです。

 

アンケート分析にテキストマイニングは向かない

そして、このテキストマイニングはアンケートの自由記述回答を分析する時にも多く使われています。
しかしぶっちゃけた話、アンケートにテキストマイニングを活用するのはあまりお勧めしません。

誤解のないようにお伝えすると、『テキストマイニング』という技術そのものは素晴らしいと思いますし、今後もあらゆる分野で多用されるべきと思います。

ただしアンケート分析への使用はお勧めできないという事です。
理由は先ほどお話しした通り、自由記述欄に書かれた内容がその人の本音である可能性は極めて低いからです。

言い換えれば、テキストマイニングに適しているのは『能動的テキストデータ』であり、『受動的テキストデータ』には向いていません。

 

『能動的テキストデータ』と『受動的テキストデータ』

例えば上記の『コールセンターにおけるお客様とオペレータのやり取り』や『インターネット掲示板やSNSへの書き込み』などは能動的テキストデータです。

お客様がコールセンターに連絡したのは、問い合わせやクレームなど何かを伝えたいから連絡したはずであり、またインターネット掲示板やSNSへの書き込みも何かを伝えたいからそこに文章を書いたはずです。

要するに『能動的テキストデータ』とは、その人が能動的に”言った”もしくは”書いた”テキストデータの事を指します。

能動的テキストデータは、伝える側が『相手に伝わるように自分の気持ちを言語化している』ので、それをテキストマイニングで分析すれば、何かしら得られるものがあると思います。

しかしアンケートの自由記述欄に書かれるものは、いわゆる『書けと言われたから書いた』データ(=受動的テキストデータ)なので、回答者がきちんと気持ちを言語化している可能性は低いのです。

上記の『①そもそも回答者に取って記述は面倒くさい』で紹介した自動車購入者への自由記述アンケート結果が典型的な事例であり、あれをテキストマイニングで分析しても有益な情報は得られなさそうですよね。

もちろん丁寧に書いてくれる方もいらっしゃいますが、ほとんどの場合、自由記述式で書かれるのはこのくらいのレベルです。

 

まとめ

このように自由記述式のアンケートは、やってもあまりメリットがありません。
やはりアンケート調査は、調査目的を設定して仮説を出し、その仮説を検証する為の質問と選択肢を作っていくという設計が大事です。

仮説がないと自由記述頼みのアンケートになってしまいがちです。

是非その点を注意してアンケート調査を活用してみて下さい。

 

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