マーケティングリサーチの学び場『Lactivator』代表。自動車会社でマーケティングリサーチに従事後、誰でも気軽にマーケティングを学べる場として2012年に本サイトを開設。また故郷:群馬県の活性化の為、2013年より上毛かるたの日本一決定戦『KING OF JMK』を主宰。著書『上毛かるたはカタル』も発売中。
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マーケティングリサーチャーの渡邉俊です。
リサーチには大きく分けて『定量調査』と『定性調査』の2種類があるというのは他のブログで何度もお話ししています。
そして、これまでに定量調査(主にアンケート調査)の設計や分析方法などを解説していますが、今日は『定性調査(主にインタビュー調査)』についてお話ししたいと思います。
実は、アンケートなどの定量調査についてはいくつも本が出版され、Web上でも多くの方が記事にしていますが、定性調査についてはビックリするくらいありません。
その理由はおそらく、
定性調査って何だか『取っ付きにくい』!
と考えられているからですね(笑)
だからこそ、初めて定性調査を行う時にクライアントから聞かれるお決まりの質問というのがあります。
それは以下の3つです。
① サンプル数が少ないけど本当に信用できる結果が出てくるの?
② 調査で対象者が言ってた事と分析結果が違うのはなぜ?
③ インタビューでお客さんから商品アイディアを聴けないかな?
これらは全て定性調査に関する誤解から出てくる質問です。
今回はこれらの質問について解説し、定性調査に対する誤解を解きたいと思ってます。
※因みに定性調査に限らず、マーケティング調査には様々な誤解があります。
それを無料メール講座で解説してますので、この機会に是非購読してくださいませ。
【よくある質問1】サンプル数が少なすぎて結果を信用できない?
定性調査は数の論理ではない
私が『定性調査(インタビュー調査)をやってみますか?』とクライアントに提案すると、『定性調査はサンプル数が少ないから信用できない!』と言われることが多々あります。
確かに、定量調査は通常数百、数千といった回答を集めて分析するのに対し、定性調査は多くても数十人程度の人へのインタビューです。
グループインタビューだとだいたい1グループ6名が基準ですから、5グループ実施したとしても30名。
『そんなに少ないサンプル数で調査して物事を判断していいのか?』と怒り出してしまう方もいます。
しかしアンケートなどの定量調査とは違い、定性調査というのは数の論理で何かを検証するというモノではありません。
この疑問を持っている方には、定性調査の本質を理解していただく必要があります。
定性調査の本質は『心理的共通項を探ること』
定性調査を活用するシーンというのは様々ですが、その中でもよくあるのは新商品のコンセプトを作る時ではないでしょうか。
その商品のターゲットとなる顧客層にインタビュー会場へ来てもらい、その人たちの価値観やライフスタイルを調査によって明らかにし、その結果から新商品のアイデアを発想しコンセプトを練っていく訳です。
この時、インタビュー調査でやるのは、
ターゲットとなる顧客層の価値観やライフスタイルに関する『心理的共通項』を探る。
という事です。
ここが定性調査を理解する上で超重要なポイントであり、アンケートなどの定量調査と根本的に違う点です。
例えば定量調査というのは言わば『多数決』みたいなもので、「その選択肢に同意、評価した人が全体の何%」なのかを算出し、一番多かった選択肢をその人たちの代表的な意見としますよね。
一方、定性調査というのは異なりまして、調査対象者の人たちが心の中に共通して持っている気持ち、価値観などを探ります。
定性調査で重要なのは『数』ではなく『質』
例えば、40~50代のサラリーマンをターゲットにした居酒屋を新橋駅周辺に開店するなったら、まずやるねばならないのはそのお店のコンセプトを決めるという事ですよね。
『どんなお店にすればターゲットのお客様は来てくれるのか?』
店を繁盛させる上ではとても重要なことです。
そんな時には新橋周辺で働いている40~50代のサラリーマンを対象に居酒屋について色々とインタビューしてみることをお勧めします。
そしてその際に重要なのは、たくさんの40~50代のサラリーマンに話を聴く事ではありません。
40~50代のサラリーマンに如何に深く話が聴けるかです。
ですから定性調査の場合、回答者の数はあまり重要ではないのです。
どちらかというと、数は少なくてもいいから自分がターゲットとしている人にきちんとインタビューできたかどうかという『回答者の質』が肝なのです。
【よくある質問2】調査で対象者が言ってた事と分析結果が違うのはなぜ?
人間がは自分の深層心理を言葉にできない
インタビュー調査の様子をご覧になったクライアントが調査会社の分析した結果を見た時、
『なんでそういう分析結果になるの?』
『そんなこと調査の中で誰も言ってなかったでしょ!』
という違和感を抱く方がいらっしゃいます。
先程書いた通り、定性調査ではその人の生活背景や価値観、心理的欲求などを探っていく事になるのですが、定性調査が難しいのはこれらの事を回答者自身も気づいておらず、説明できないという点です。
先程の新橋の居酒屋の例でいくと、
『あなたは居酒屋についてどんな価値観を持ってますか?』
なんて聞かれても何て答えてよいかわからないですよね(笑)
ですから、『新橋の40~50代のサラリーマンが持っている居酒屋に関する価値観』を明らかにしたいのであれば
『普段どんなお店でお酒を飲みますか?』
『そのお店のどんなところが好きですか?』
『そのお店について何か不満はありますか?』
などなど調査の中でそれにまつわる様々な質問を対象者に行い、そこで得られた情報をつなぎ合わせて考えられる価値観を導き出すのが定性調査の分析なのです。
定性調査の分析は明文化しにくい
じゃあどうやって、定性調査の分析を行うのか・・・ですが、これが難しいです。
冒頭でも申し上げた通り、アンケートなどの定量調査の分析方法についてはいくつも本が出版されているものの、定性分析に関する本はほとんどありません。
おそらく明文化しにくいからだと思います。
ただ、僕が定性分析をやる時にどんな手順で思考しているかというと、仮にAさん、Bさん、Cさんの3人にインタビューして心理的共通項を導き出す場合のフローはこんな感じです。
① Aさんが話した内容を再度聴き、その言葉から深層心理で何を考えているのかの仮説を立てる。
↓
② その仮説がBさん、Cさんの深層心理にも当てはまるのかを検証する。
(Aさんの深層心理と一緒かどうかをBさん、Cさんの話を再度聞いて証拠を見つける)
↓
③ もしBさん、Cさんに当てはまらなければ①に戻り、別の仮説を立てる。
↓
④ 3人共に当てはまる仮説が見つかれば、それを調査のアウトプットとする。
人間には『口にできる本音』と『口にできない本音』があります。
『口にできる本音』というのが調査の中で回答者から聞ける言葉であり、『口にできない本音』というのが深層心理、いわゆる分析で導き出したい部分ですね。
従いまして、定性分析というのは回答者から出てきた『口にできる本音』を基に『口にできない本音』を探っていく作業なのです。
ただ、フローを書いてみたものの、実際にやってみるとそんなに簡単なものではありません。
仮説を何度も何度も作り直してやっとアウトプットにたどり着きます。
でも、やっていると実に楽しい作業なんですけどね(笑)
【よくある質問3】インタビューで商品アイデアを聴いてみたい!
定性調査の依頼として『インタビューでお客さんの商品アイデアを聴きたい!』という話をいただく事があります。
しかし、これも一般の方に多いインタビュー調査の誤解です。
なぜなら、インタビューされる人は商品アイデアなんて持っていないからです。
インタビュー調査の対象者というのは大概の場合『消費者』です。
自動車業界や製菓会社の人でもない消費者に、
『どんな自動車があれば売れると思うか?』
『どんなお菓子を作ればヒットするか?』
なんて聞いても、困ってしまうだけですよね。
そんなことは日常の生活で全く考えてない訳ですから、何かアイデアを出せと言われても何もないのです。
これについてはスティーブ・ジョブズもちょっと誤解しています。
※ご興味ある方はこちらのブログをご覧下さい。
ですから、商品コンセプトを練る為に定性調査をやる目的は、アイデアを募るのではなく、その顧客層が持つ生活背景や価値観、欲求などを探り、それがどう購入意向に繋がるかを探ります。
そして、そこから出てきた結果を商品コンセプト構築に活用するのです。
まとめ:やっぱり定性調査って難しい!
いかがでしょうか。
定性調査に対する誤解が少しでも減ってくれればと思い、このブログを書きました。
そして他のブログにも書きましたが、『定性調査は定量調査の100倍難しい!』という理由も理解いただけたのではないかと思います。
※ご参考にこちらのブログも是非お読みください。
でも・・・ですね。
これを読んで、『定性調査って面白そう!』と感じた方はリサーチのセンスがある人です(笑)
人間の深層心理を明らかにするって難しいからこそ興味深いのですよね。
最初は下手でもよいので、ご興味のある方はぜひ一度やってみて下さい。