マーケティングリサーチの学び場『Lactivator』代表。自動車会社でマーケティングリサーチに従事後、誰でも気軽にマーケティングを学べる場として2012年に本サイトを開設。また故郷:群馬県の活性化の為、2013年より上毛かるたの日本一決定戦『KING OF JMK』を主宰。著書『上毛かるたはカタル』も発売中。
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こんにちは、マーケティングリサーチャーの渡邉俊です。
今日はアンケート調査の結果に”説得力”を持たせるちょっとしたコツを2つほど紹介したいと思います。『基石(きせき)』と『捨て石(すていし)』というものです。
最初にお断りしておくと、この2つの言葉はマーケティングリサーチの用語ではありません。僕が作った言葉ですのでGoogleで調べても載っていないと思います(笑)
僕が定量調査の調査票設計を行う時に頭の片隅に置いている事です。
なので、コツの名称は読んだ方が自由に変えていただいて構わないのですが、その内容と意義については是非知って頂きたいと思っています。
アンケートに『説得性』を持たせるとは?
このサイトの他の記事でも何度かお話している通り、アンケート調査を行う時に事前に考えないといけないことがいくつかあります。
その中でも結構大切なのは、
●回答者が本音を答えてくれるような仕込みや仕掛けが調査票に入っているか?
●そのアンケート調査を分析した時、報告者(または自分自身)を説得させるような結果の見せ方が出せるか?
です。
アンケート調査は、上司や取引先の会社の方々にその結果を見せたり、または自分自身が結果分析したりして次のアクションに繋げる為が多いと思います。
従いまして、回答者がお世辞や社交辞令で答えられる設計だとやる意味がありませんし、出てきた結果を疑われてしまうようなものではいけません。
その為に、アンケート調査に書く設問はもちろん、選択肢の置き方にも色々とコツがある訳です。
選択肢設定のコツ①:『基石』
まず1つ目は『基石』というコツを紹介します。
これは一言で言うと、“調査結果を考察する際に”判断基準”となる選択肢や項目を予め作っておく”ということになります。”基準の石”を作るから『基石』です。
調査票(アンケート票)の事例
例えば以下はランドセルを購入した人に対して実施したアンケート調査の事例なのです。1⃣と2⃣を見比べてみてください。
1⃣基石のない調査票事例
Q: あなたはランドセルを購入検討していた際、以下の項目はどの程度重視していましたか。
それぞれの項目について当てはまるものを1つずつお選び下さい。1.軽さ
2.持ち運びのしやすさ
3.背負いやすさ
4.内容量
5.色(本体)
6.色(ステッチ、糸)
7.ポケットの多さ
8.手入れのしやすさ
9.素材
10.刺繍(ししゅう)のかわいさ/カッコ良さ
11.鋲の形状
2⃣基石のある調査票事例
Q: あなたはランドセルを購入検討していた際、以下の項目はどの程度重視していましたか。
それぞれの項目について当てはまるものを1つずつお選び下さい。1.軽さ
2.持ち運びのしやすさ
3.背負いやすさ
4.内容量
5.色(本体)
6.色(ステッチ、糸)
7.ポケットの多さ
8.価格
9.手入れのしやすさ
10.素材
11.刺繍(ししゅう)のかわいさ/カッコ良さ
12.鋲の形状
1⃣と2⃣の違いは見てお分かりの通り、『価格』という項目があるかないかだけです。
しかし、この『価格』を項目として置く事が結果を分析・考察する際に大いに役立ちます。
データ考察の”基準”を選択肢に設ける
この質問で行った調査結果をまとめると以下のようになります。
もし左側のアンケート結果のように”価格”という項目がなかったとしたら、調査の結論は
お客様がランドセルを購入検討する際に一番重視するのは『本体の色』である。
ということになります。
しかし、右側のように”価格”を選択肢として入れたことで、
お客様がランドセルを購入検討する際に一番重視するのは『本体の色』であり、また『背負いやすさ』や『素材』、『内容量』なども『価格』より重視する傾向にある。
と言う事ができますよね。
ごく一部の富裕層を除いて、何かモノを買う時にその『価格』を気にしないで買うという方はほとんどいないと思います。
その為、モノを作って売っている側からすれば”いくらで売るか”というのは結構頭を悩ます事なのですが、その価格よりもお客様が重視していることがあるというのは売っている側からすればとても重要な情報になりますよね。
このように結果データを考察する上での”基準”となる選択肢を設定する事で、聞き手によりインパクトを与える結論を導く事ができる訳です。
選択肢設定のテク②:『捨て石』
次に『捨て石』というコツです。
これはアンケートの中で特に知る必要のないことも敢えて選択肢にするということを指します。
例えば先程の出した設問をもう1度見て下さい。
調査票(アンケート票)の事例
Q: あなたはランドセルを購入検討していた際、以下の項目はどの程度重視していましたか。
それぞれの項目について当てはまるものを1つずつお選び下さい。1.軽さ
2.持ち運びのしやすさ
3.背負いやすさ
4.内容量
5.色(本体)
6.色(ステッチ、糸)
7.ポケットの多さ
8.価格
9.手入れのしやすさ
10.素材
11.刺繍(ししゅう)のかわいさ/カッコ良さ
12.鋲の形状
この質問、実は以前私がランドセルメーカーから依頼されたアンケート調査で聴いたものです。
この質問の背景は、ランドセルを買うお客様は『内容量』や『色(本体)』よりも『軽さ』を重視するのではないか?その為、もっと軽いランドセルを開発した方がよいのではないか?という仮説があったことによります。
この調査をやった2017年頃は小学校に持っていく教科書や荷物が徐々に多くなり、腰痛を患う子供が多いというニュースが結構話題になったのです。
ただ、その仮説をアンケートで検証する為に、
Q: あなたはランドセルを購入検討していた際、『軽さ』は重視しましたか?
と単刀直入には質問しませんでした。
なぜならば、回答者に『あ、この質問者はランドセルか軽くした方がいいと考えているんだな・・・』という質問のウラを読まれてしまうことを嫌ったからです。
その為、他にもどんな重視項目が考えられるかを考えて項目化し、『手入れのしやすさ』や『鋲の形状』など”おそらくどうでもいい項目”も『軽さ』という項目と混ぜて質問に入れています。
【重要】なぜ質問のウラを読まれてはダメなのか?
なぜアンケートのウラを読まれてはいけないのか?
ちょっと説明が難しいのですが、要するにウラを読まれると回答者は中立的に回答しなくなってしまう可能性があるからです。
いわゆる『過剰意識』を持たせてしまうという事なのですが、上記のように単刀直入に『軽さ』は重視しましたか?と質問すると、
大して重視はしてなかったけど、『重視しました』って答えた方がよいのかな・・・
という余計な思いが回答者の脳の中にでてきてしまいますよね?
そうすると結果的に、『重視しました』と答えた人の割合が実際に重視した人の割合よりも高くなってしまうという現象が起こりやすくなります。
いわゆる『誘導質問』みたいなニュアンスになってしまう訳ですね。
こんな風に、回答者が中立的に回答できなくなってしまうような質問をマーケティングリサーチでは『バイアス(Bias)がかかっている質問』といいます。
できるだけバイアスがかからないように、質問のウラは回答者にばれない方が良い訳です。
※バイアス(Bias)については以下の記事にも書いてますので併せて読んでみて下さい。
理想は『性格診断テスト』
質問のウラを読まれない質問設定として良い事例は、心理学の分野などで行われる『性格診断テスト』です。
やった事がある方も多いかもしれませんが、以下のようなアンケートです。
あなた自身について、以下の項目が当てはまるか否かを『はい』、『いいえ』でお答えください。
- 他人に自己紹介するのが苦手だと感じる。
- 自分の考えに夢中になって、周囲のことを無視したり忘れることがよくある。
- 受信箱がごちゃごちゃするのが我慢できず、できるだけ早くEメールに返答しようとする。
- プレッシャーがあるときでも常にリラックスし、集中できる。
- 通常、自分から話を始めることはない。
- まったくの好奇心から何かを始めるということは、めったにない。
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こんな感じの質問が200問くらい延々と続きます。
全て答えると若干の疲労感を感じますが(笑)、このアンケートは各々の質問がどんな役割をもっているのかイマイチ分かりませんよね?
意図はよく分からないけど、『質問されたから答えた』という思いで回答している方がほとんどだと思います。
実はこれって、バイアスのほとんどかかっていないアンケート調査の理想だと言えます。
※アンケート調査における選択肢の設定方法については以下の記事でも書いてますので、併せてご覧くださいませ。
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