【上級編】回答者の本音をアバくアンケート調査の『選択肢』の作り方


マーケティングリサーチャーの渡邉俊です。

先日書きましたコラム、
『【基礎編】回答者の本音をアバくアンケート調査の『選択肢』の作り方』
読んでいただきましたでしょうか?

まだの方は是非こちらから読んでみて下さい。

今日はその続き【上級編】についてお話します。
(【基礎編】を読まないとこの先が理解できなくなってしまうので絶対に読んでくださいね)

以前から申し上げている通り、マーケティング調査は回答者の本音を聞く必要があります。
その本音を得る為に色々な準備・設計をして調査票(アンケート票)を作る訳ですが、その調査票を作る時の重要な要素の1つに『選択肢の設定』があります。

そして【基礎編】では『選択肢はMECEに作る!』ことが鉄則であると説明しました。
今日はその続きです。

 

MECEに選択肢を作りにくい事例

ここで1つ問題です。
もし次のような質問に対してMECEに選択肢を設定したい場合、どのように作ったらよいでしょう?
マーケティング調査の質問ではないですが、ちょっと考えてみて下さい。

大谷翔平選手が好きと答えた方に伺います。
あなたは大谷翔平選手のどんなところが好きですか?
以下の選択肢の中から当てはまるものを全てお選びください。

念のため野球に興味のない方の為に説明すると、大谷翔平選手とはこの方です。

ohtani_shohei

現在メジャーリーグで活躍している超一流の選手ですね。

いかがですか。MECEに選択肢を作れそうですか?
実は結構難しくないですか?

好きだと思う理由を選択肢にしてMECEに作るってどうしたらよいのだろう?と思うかもしれません。
そうです、これは難しいのです。だからこそ『上級編』です(笑)

 

『理由』の選択肢をMECEに作る

基礎編で例題として示したような、回答者の性別や年齢、社会的地位、はたまた旅行に行った場所や家を購入する時期などは選択肢をMECEに作りやすいはずです。
しかし、上記の様にアンケート調査で何かしらの『理由』を聞きたい場合、MECEに選択肢を作るのはかなり難しくなります。

そりゃそうですよね。理由というのは人によって実に様々ですから。
大谷選手のどこが好きかと言われても、『たくさんホームランを打つから』という人もいれば『剛速球を投げるから』という人もいますし、はたまた野球の技術は関係なく『顔がカッコいいから』、『笑顔が素敵だから』なんていう女性の方もいるはずです。
もちろんそれ以外の理由を挙げる方も多数いらっしゃるでしょう。

そうなると、MECEに選択肢を作るなんて不可能なんじゃないか?と思うかもしれません。
まあ難しいですが、全く不可能ではありません。

こういった類の質問に対する選択肢を作る方法として覚えていただきたいのが、『フレームワークを活用した選択肢の設定』です。

 

フレームワークを使って選択肢を作る

ここでちょっと例題を変えましょう。
例えば以下のようなマーケティング調査の質問についてどう選択肢を設定するかを考えてみて下さい。

弊社の商品を具体的に購入された方に伺います。
他社と比較して最終的に弊社をお選びいただいた理由は何ですか。以下の中から当てはまるものを全てお選びください。

店舗などを経営している方にはお馴染みの、お客様が自社商品を購入した理由を聞く質問です。
これも人によって理由は様々だと思いますよね。

こんな時に役立つのが『マーケティングミックス(4P)』です。

マーケティングミックス(4P)
・Product (商品)
・Price (価格)
・Promotion (広告宣伝)
・Place (流通)

以前のコラムにも書きましたが、マーケティングミックスとはお客様に買ってもらう為に売り手側がコントロールできるマーケティングの手段になります。

※マーケティングミックスについておさらいしたい方はこちらを御覧下さい!

そして、この4つに基づいて選択肢を考えていけばよいのです。
例えばこんな感じに。

弊社の商品を具体的に購入された方に伺います。
他社と比較して最終的に弊社をお選びいただいた理由は何ですか。以下の中から当てはまるものを全てお選びください。

<Product(商品)>
・色のラインナップが魅力的だったから
・デザインが気に入ったから
・〇〇の機能が気に入ったから

<Price(価格)>
・他ブランドと比べて値段が安かったから
・以前もらった割引クーポンが使用できるから
・他ブランドの比べて、分割払いが可能だから

<Promotion(広告宣伝>
・オンエアされているTV広告が面白かったから
・現在実施しているキャンペーンの内容に惹かれたから
・マスコットキャラクターが可愛かったから

<Place(流通)>
・家から近いところに店舗があるから
・店員さんに好感を持てたから
・ネット購入ですぐに届けてくれるから

・・などなど。

要するに、『理由』を聞く設問の場合、MECEに選択肢を作るのは極めて難しくなります。
その為、フレームワークを使って考えられる理由をフレーム化(大枠化)し、その1つ1つのフレームに対して更に細かく仮説を立てて選択肢を作っていくのです。

こうする事により、MECEな選択肢を作りにくい場合でも時間をかけずに考える事ができます。

 

フレームワークの種類(4P以外)

この”マーケティングミックス(4P)”のようなものをフレームワークといいます。
通常は経営戦略の策定や業務改善、問題解決をする際に使う『思考の枠組み』として使われるものであり、MBAなどでもロジカルシンキングの手法として教えられます。
要はこれを使って、漏れなく選択肢を考えればいいのです。

マーケティングの4P以外にも様々なフレームワークがあります。
ここで、私がマーケティング調査を行う際によく使うフレームワークを挙げておきますのでご参考にして下さい。
もちろんこれ以外にも色々なものがありますので、必要ならばGoogleで調べてみてもよいと思います。

★マーケティングの4C

Customer Value(お客様にとっての価値)
Cost(お客様にかかるコスト)
Convenience(お客様にとっての利便性)
Communication(お客様との対話)

これはマーケティングミックス(4P)の顧客視点バージョンと考えてください。
主にお客様が商品を購入した理由、または購入しなかった理由を聴取したい時に使用することが多いです。
その為、4Pではなく4Cを使って理由に関する選択肢を作ってもよいと思います。

★PEST

Politics(政治)
Economy(経済)
Society(社会)
Technology(技術)

明らかにしたい課題を外部要因から分析したい時によく使います。
例えば、以下の質問はある人材派遣会社が派遣社員向けに実施したアンケートになります。

現在派遣社員としてご活躍されている方に伺います。
あなたが派遣社員としてお仕事を続けている中で、以下のことはどの程度気にかけていますか。

・人材派遣に関する今後の法整備動向  →<Politics(政治)>
・日本国内の景気  →<Economy(経済)>
・移民による労働力の国内流入  →<Society(社会)>
・事務作業のAI化またはロボット化  →<Technology(技術)>

・・・などなど。

派遣社員の方々が業界を取り巻く外的要因についてどの程度気にかけているかについて調査した際の質問です。
このような設問の選択肢を作る場合はPESTが一番相応しいです。

★4M

Man(人)
Method(手段)
Material(材料)
Machine(機械・器具)

4Mは工場などでの品質管理に使われるフレームワークですが、それ以外にも色々使えます。
例えば、以下はあるカラオケチェーンの会社がお客様に実施したアンケートです。

今回のご来店で、あなたが当店に対して『不満』と答えた理由について伺います。
あなたが不満に感じたものは以下のうちどれですか。当てはまるものを全てお選びください。

・電話時の店員の態度  →<Man(人)>
・入室した時の店員の態度  →<Man(人)>
・料理/ドリンクの注文方法  →<Method(手段)>
・料理/ドリンクの味  →<Material(材料)>
・カラオケの機材  →<Machine(機械・器具)>

・・・などなど。

このように人的要因、物的要因など多角的に原因分析をしたい場合は4Mが適していると思います。

※因みにマーケティング調査で陥りやすい8つの誤解を、Lactivator発行の無料メール講座で詳しく解説しています。この機会に是非購読登録してみて下さいね。

 

自由回答は極力NG

このようにアンケート調査で理由を聞きたい場合、多くの方がやってしまいがちなのが自由回答欄を作って答えさせるという事です。

弊社の商品を具体的に購入された方に伺います。
他社と比較して最終的に弊社をお選びいただいた理由は何ですか。以下の欄に200字以内でご回答ください。

という形です。

他のコラムでも申し上げている通り、自由回答欄を設定するのは極力やめましょう。
回答者からすればそもそもアンケートに答えるという行為自体が面倒なのに、文章を書かなければいけないというのは回答へのモチベーションを大きく低下させます。
その為、空欄のままにしてしまったりテキトーに書いて終えてしまったりする場合がほとんどで、調査結果としてはほとんど使えません。

また、そもそも定量調査というのは集計してナンボですので、文章で書かれてしまうとそれができなくなってしまいます。

アンケートを作る側からすれば自由回答欄の方が簡単ですが、そこはきちんと手間暇かけてMECEに選択肢を作りましょう。

大谷翔平が好かれる理由をMECEに分析する

そういえば、最初に例題として出した以下についてまだ答えを提示してませんでした。

大谷翔平選手が好きと答えた方に伺います。
あなたは大谷翔平選手のどんなところが好きですか?以下の選択肢の中から当てはまるものを全てお選びください。

いかがでしょうか。この質問に対する選択肢をMECEに作る場合、どんなフレームワークを使えばよいでしょうか?

あくまで私個人のやり方ですが、こんなフレームワークでやってみるのはどうでしょう。

フレームワーク『心・技・体』

【心】
・野球に対する素晴らしい情熱を持っているから
・目標に向けて前進しているところが尊敬できるから
・ファンを常に大切にしているから

【技】
・大きなホームランをたくさん打つから
・剛速球を投げる事ができるから
・ピッチャーとバッターの両方で素晴らしい技術を持っているから

【体】
・身長が193cmと高いから
・顔がかっこいいから
・笑顔が素敵だから
・筋肉がムキムキだから

・・・などなど。

私が思うに『心技体』も立派なフレームワークです。
この3つが揃ってこそ真のスポーツ選手ですからね。

『理由の解明』はアンケート調査の弱点

このように、フレームワークを使ってMECEに選択肢を作ればその課題に対する『理由』を探ることができます。
但しこの『理由を探る』という作業は、実は定量調査(アンケート調査)の弱点でもあります。
いくらフレームワークを使ってMECEっぽくに選択肢を作ったとしても、それが完全にMECEかと言われるとそうではないですし、何より理由を深堀していくことができません。

従いまして、定量調査で理由を解明するのはある意味限度があるのです。
理由を深堀していきたいのであれば、定量調査ではなく定性調査(インタビュー調査)の方があっています。
インタビューですので、アンケート調査に比べるとサンプル数は少なくなってしまいますが、その分『理由』に関する深い部分を聞くことができます。

理想は、定量調査と定性調査の両方を行うのが一番よいのですけどね。
これについては少し話が長くなるので、また別の機会にお話しします。

 

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