マーケティングリサーチの学び場『Lactivator』代表。自動車会社でマーケティングリサーチに従事後、誰でも気軽にマーケティングを学べる場として2012年に本サイトを開設。また故郷:群馬県の活性化の為、2013年より上毛かるたの日本一決定戦『KING OF JMK』を主宰。著書『上毛かるたはカタル』も発売中。
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マーケティングリサーチャーの渡邉俊です。
私がまだサラリーマンだった頃。
その頃は自動車会社でマーケティングリサーチをやっていたのですが、何か調査の企画をして上司や役員に提案した時、毎度のように聞かれる質問がありました。それは、
『このリサーチの仮説は?』
です。
この質問に答えられなかったり、またきちんとした仮説がなかったりすると、『仮説もない企画なんか持ってくるんじゃねえ!!』とこっぴどく叱られたものです。
もちろん提案は却下され、後日同僚と一緒に仮説を練って上司に再チャレンジしたのですが・・・
当時青二才だった私は『そんなに怒らなくても・・・』と内心思っていたのですが、今になってみれば上司がキレた理由がよくわかります。
というか、仮説がないとリサーチをやりたくてもやりようがない・・・と言っても過言ではないくらい必要なものなのです。
今日は、マーケティングリサーチに必要な、いやビジネスをやる上で絶対に必要と言っても過言ではないこの『仮説思考』について話をしようと思います。
『仮説思考』とは何か?
そもそも仮説って何?
まず、そもそも仮説って何?と思った方もいるはずです。
辞書で調べてみると、
仮説とは、
“ある現象を統一的に説明するために立てた仮定。”
とあります。
要するに、ビジネス上で起こっている事について、その原因が何かをリサーチして明らかにしたい時、「なぜそんなことが起こっているのだろう?」と考えた仮定の原因が『仮説』です。
例えばあなたがネットショップでハンドメイドの商品を売っているとして、なかなか買ってくれる人が現れないと、
『値段が高すぎるかな?』
『ネットショップに掲載している商品の写真が変なのかな?』
『そもそも怪しいネットショップだと思われているのかな?』
と売れない原因を色々考えたりしますよね?
それがハンドメイド商品が売れない「仮説」です。
「売れない」というビジネス上の事象について、その仮定の原因を考えている訳です。
仮説は検証する為にある
ただそういうと、『私も日々仮説を考えているよ!』という方がほとんどだと思います。
誰しもビジネスがうまくいかないと何が原因なのかと思い悩んでしまうものですからね。
しかし、ただ仮説を考えただけだと何の意味もありません。
何も解決しないまま時間だけが過ぎ去っていくことになります。
今日お話しする『仮説思考』というのは、
『ただ仮説を考えるだけではなく、考えた仮説が真なのか偽なのかを検証する。』
ということです。
要するに、
値段が高すぎるのかな?と思ったら、ネットショップに来た人がそう思っているのかどうかを検証する。
掲載している商品の写真が変なのかな?と思ったら、ネットショップに来た人がそう思っているのかどうかを検証する。
怪しいネットショップだと思われているのかな?と思ったら、ネットショップに来た人がそう思っているのかどうかを検証する。
このように、仮説1つ1つを検証して、真の原因を突き止める事が『仮説思考』です。
問題解決をする2通りの道筋
従いまして、マーケティングリサーチというのは明らかにしたいことについて仮説をまず作り、それを検証するというプロセスを取るのが普通です。
いや、普通というか、そうしなければ絶対にリサーチは成功しません。
だからこそ、冒頭にも書いた通り、私の上司はブチ切れたのです(笑)
どういう事かというと、何かビジネスや日常の事で問題解決をしたい場合、大きく分けて2つの道筋があると思います。
それは、『情報収集型』と『仮説検証型』です。
情報収集型の問題解決
情報収集型とは要するに、
1) 問題について集められる情報をできるだけ集める。
2) 集めた情報を片っ端からチェックする。
というやり方です。
よく刑事ドラマなどで、
『何でもいいから情報をかき集めてこい!』なんて言う捜査課長がいますが、いわゆるそれが情報収集型の問題解決です。
そうすると刑事たちは色んなところに散らばって情報を集める訳ですが、タカとユージだけはのほほんと横浜のバーで女性とお酒を飲んでいたり・・・するのですよね。
(あぶない刑事より・・・世代が違って分からない方はスミマセン(笑))
仮説検証型の問題解決
一方、仮説検証型というのは
1) 問題の原因と考えらえる『仮説』を作る。
2) その『仮説』を検証する為の情報を集める。
というやり方です。
刑事ドラマでいうと、現場検証の結果から犯人像を推測し、
『〇〇辺りを重点的に洗ってくれ(調べてくれ)』という捜査課長の指示に似ています。
おそらく、捜査課長は現場の状況から事件解決に向けて何かの仮説を立てたのですよね。
しかし捜査課長の指示より前に、タカとユージは先回りしてその辺を調べていたりするのですが。
(またまた分からない方はスミマセン)
『情報収集型』よりも『仮説検証型』を選ぶワケ
以上のように、問題解決には大きく分けて2つのプロセスがあります。
さて、ではどちらのプロセスを選ぶのが賢明か・・・?ですが、それは明らかに『仮説検証型』です。
これはマーケティングリサーチのみならず、ビジネスもプライベートも関係なく、問題解決には『仮説検証型』(=仮説思考)で行くことを強くお勧めします。
それはなぜか?
理由は簡単です。
『情報収集型』だと問題解決までに膨大な時間を費やすことになってしまい、いつまで経っても解決の糸口が見つからない可能性が高いからです。
要するに、情報に埋もれてしまうパターンですね。
『情報はあればある程良い!』と思う方が多いのかもしれませんが、実際情報というのは多くなればなるほど困惑し、どれを信じてよいのかわからなくなり、かつその処理に時間を取られ、最終的には投げ出してしまいます。
逆を言えば、情報はまず自分が知りたい範囲のものをピンポイントで集め、処理していった方が効率的で分かりやすいのです。
それがいわゆる後者の『仮説検証型』であり、まず今わかっている事を整理して仮説を作り、それを検証する為の情報を集めるという事ですね。
またマーケティングリサーチの話に戻ると、
『情報収集型』で調査票(アンケート票)を設計すると、時間をかけて膨大な量の質問を作ることになります。
こうなると調査後の分析にこれまた膨大な時間がかかることになり、おそらく途中で諦めてしまうことでしょう。
そもそも回答にもかなりの時間を要する訳ですから、そんなアンケートに答えてくれる人はいません。
きちんと『仮説検証型』で、仮説を作って検証する調査票を作るのがマーケティングリサーチの基本の「キ」なのです。
仮説は外れても全然OK
しかし当然の事ながら、『仮説検証型』で調査を設計して実施すると、用意した全ての仮説が外れるということが起こる可能性もあります。
私も長年リサーチをやっていますが、そういった経験は何度もあります。
ただ申し上げたいのは、決して『仮説が外れた』=『調査は失敗した』という事ではありません。
仮説が外れたということは、調査で得る事ができた超重要な結果です。
だって、『自分のビジネスがうまくいかない原因はおそらくこれじゃないかな』というのが仮説ですよね?
それが外れたという事は、『自分が思っていた事が原因ではなかった』という事が明確になったということです
いわゆる自分のビジネスに対して持っていた『先入観』をリサーチによって壊すことができたのです。
そして、次にやるべきことはただ1つ。
新しい仮説を作って、それを検証する事です。
仮説が外れたらその結果はきちんと受け入れて、また新しい仮説を作って検証すればよいだけのことです。
これを繰り返していくことにより、ビジネスはどんどん洗練されていくはずです。
「理由」を聴くアンケートでは仮説がないと絶対ダメ!!
以上がマーケティングリサーチを『仮説検証型』でやらなければならないワケです。
ただもう1つお話しすると、何かしらの『理由』をリサーチしたい場合は、絶対!を10個くらいつけてもいいくらい仮説が必要です。
例えば、最初の方で例として出したネットショップのハンドメイド商品が売れない『理由』を明らかにしたい時。
『値段が高すぎるかな?』
『ネットショップに掲載している商品の写真が変なのかな?』
『そもそも怪しいネットショップだと思われているのかな?』
という感じでいくつか仮説を出しましたが、まさにこれが大事になります。
なぜならば、仮説がない状態で商品が売れない理由を明らかにしようとすると、アンケート上での設問文は以下のように、
『この商品を買いたくない』と答えた方に伺います。あなたがこの商品を買いたくないと思った理由は何ですか。以下の回答欄にお書きください。(400字以内)
という感じで、回答者に理由を記述してもらう質問になってしまいます。
これは絶対にNGです。
というのは、これは心理学っぽい話になるのですが、
人間は誰しも、『自分の行動を論理的、合理的に説明できない』という性質を持っているからです。
だいたいこのような質問を普通に口頭ですると、
『いや、何となく買いたくないなと思って・・・』
という答えが返ってきます。
要するに、なぜ買いたくないのかという理由を説明できないのです。
口頭で聴いても答えられないのですから、アンケートに文章で書けと言っても書ける訳がありません。
(そもそも文章で書けということ自体、回答者にとっては面倒くさいというのもありますが)
このように、人間は自分が取った行動に対する理由を合理的に説明できません。
これを『行動の不合理性』といいます。
従いまして、理由を答えろという質問は回答者にとってかなり負担なのです。
ではどうすれば良いかというと、最初の話に戻りますが、
『なぜ買いたくないのかについて仮説を作り、それを検証する設問をアンケート内に作る』必要があります。
上記のハイドメイド商品のネットショップの例で言えば、
『この商品を買いたくない』と答えた方に伺います。
あなたがこの商品を買いたくないと思った理由は何ですか。以下の選択肢の中からあなたのお気持ちに合うものを全てお選びください。1) 価格が高すぎると感じたから
2) 商品紹介に使われている写真では、商品の内容がよくわからないから
3) このネットショップ自体が信用できないから・・・etc
という感じで、仮説を選択肢にして選んでもらうのが一番オーソドックスな方法ですかね。
これであれば、回答者は選択肢を見て、『あ、これが自分の気持ちに近いな!』というものを選んでくれますから、負担も軽減されます。
以上ですが、いかがでしょうか?
仮説を立てる事がマーケティングリサーチでは非常に重要であるという事をご理解いただけたでしょうか。
リサーチだけでなく、『仮説検証型』は日々の生活で巻き起こる問題を解決する時にも役立ちます。
是非、仮説思考の癖付けをお願いします!