『値下げしようかな・・・』と弱気な時に売り手が考えるべきこと

 

こんにちは!
マーケティングリサーチャーの渡邉俊です。

3年前に、『PSM(Pricing Sensitivity Measurement)』という商品の適正価格を知る調査方法についてこのブログに書きました。

参考) 適正価格をアンケートで調査する~『PSM』のやり方から分析まで紹介~

この記事は今でも沢山の方に読んでいただいており、また沢山の方がコピペしています。
(文章がコピペされるとメールで通知が来る仕組みになっています。ダメとは言いませんが悪い使い方はやめて下さいね^^)

多くのビジネスマンが『自分の商品をいくらで売るのが適切なのか?』に非常に興味を持っています。
もちろん、価格というのはダイレクトに自社の収益に効くものなのでよく考えて決めるべきです。

ですが、悩みに悩んで設定した価格をお客様に『高い!』と言われたという理由だけで安易に値下げしてしまうケースも多々あります。

また価格というのは下げようと思えばいつでも下げられます。
1万円で売っていたものを「5000円!」とただ宣言するだけですから、5秒あれば価格なんて変更できてしまいます。
でも、一度値下げすると再び値上げするのはかなり勇気のいるものです。

もちろん時には価格を下げる事も大切な戦略・戦術になりますが、その前に1度冷静になって考えてもらいたい事があります。

【考えるべきこと】お客様はなぜ『高い!』と感じたのか?

価格に対する感情は5パターンの『比較』で生まれる

値下げをする前に冷静になって考えてもらいたいのは、お客様は何と比べて『高い!』と感じたのか?という点です。
(値段が)高い/安いと感じるという意味をよ~く考えてほしいのですが、これはほとんどの場合、お客様が自分の心の中で

何かと比較した』

からこそ出てくる感情なのですね。

そして、その比較対象によって取るべき対応が違ってくるのです。

基本的に、お客さんが『(値段が)高い/安い』と感じている時の比較対象は5つです。

  • 何とも比較してない:そもそも要らないから『高い!』
  • 自分の財布の中身と比較:自分が支出できる予算に比べて『高い!』
  • 予想される商品価値と比較:商品から得られる価値に比べて『高い!』
  • 市場相場と比較:自分の相場感に比べて『高い!』
  • 競合商品と比較:市場相場に比べて『高い!』

1つずつ解説していきます。

<パターン①>何とも比較してない

そもそも今の自分には要らないから『高い!』

まず一番多いのがこれになります。
特に飛び込み営業などをやっている会社の営業マンは、飛び込んだ先に『高い!』と言われたら結構凹みますよね。

自分では『これは良い商品だ!絶対に大ヒットする!』と思っていても、日本全国、全世界の方が買ってくれる訳ではありません。まず狙うのは自分がターゲットとするお客様です。

またどんなに画期的な新商品の発売を開始したとしても、最初に『これ欲しい!』と言ってくれるのはターゲットとするお客様の15%くらいだと思ってください。
残りの人たちは、その商品の良さが口コミで広がって市民権を得ないと購入してくれません。
(※これは『キャズム理論』という有名なマーケティング理論があります。詳細は別のブログで説明します。)

【対策①】 その人に売るのをスッパリ諦める

そんな時はスッパリ売るのを諦めて下さい。
ターゲットから遠い人に対してその商品の価値を分かってくださいと言っても無理がありますし、本当に必要ない人は例えタダであげるとしても「要らないものは要らない」のです。

これまで僕は多くの起業家の方とお話してきましたが、ビジネスを始めたばかりの方はここでつまづいているのではないかと思います。
まずは『自分のターゲットと思われる人たちに絞って売ってみる』です。

【対策②】ターゲットを再度明確にする

そもそも自分の商品のターゲットが誰なのか?が明確になっていない場合も多く見受けられます。
新しい商品を発売する時、まず検証しなければいけないのは『ターゲットに売れるかどうか?』です。

例えば、20代の女性をターゲットにした化粧品なのに、40~50代の女性にばかりセールスしていて『売れない!』と嘆いても仕方ないですよね。
まずは自分が狙うべきターゲット像を明確にして、それに近しい人たちにどれくらい売れるのかを測ってみる事が大切です。

<パターン②>自分の財布の中身と比較

自分が支出できる予算に比べて『高い!』

これは『欲しいけどそんなお金持ってない』という自分の懐具合と比較しています。
要するに無い袖は振れない訳です。そりゃそうですよね。

人生1度でいいから月へ旅行に行ってみたい!と言っても、1人あたりの料金が10億円だったら購入できる人は極わずかの富裕層のみです。
ちょっと極端な例だったかもしれませんが、人生の中でも家やマンション、自動車などの高額商品を購入する時には『いくらくらいだったら払えるか?』を考えますし、経験的には10万円以上のものを購入する際にこの感情が湧き出てくる人が多いです。

【対策①】 分割払いやローンをお客様の選択肢に入れる

この感情に対抗する方法はたくさんあります。
1つは単純に、『分割払い』や『ローン』をお客様の選択肢として設定すればよいのです。
家にしろ自動車にしろ一括払いでドーン!という人はほとんどおらず、もし支払い方法が一括のみだったら誰も買いませんよね。

そこまで高額ではないにしても、目安としては10万円を超える商品を売るのであれば分割払いも選択肢にした方がよいと思います。

【対策②】商品をグレード分けする

また1つの商品をいくつかのグレードに分けるというのも定石です。

自動車も1つのモデルが装備によって何種類ものグレードに分かれて販売されていますし、もっとも身近なのはマクドナルドのドリンクもS、M、Lとグレード分けされていますよね。

こうすることによってお客様は各グレードの価格と商品の中身を天秤にかけ、一番欲しいグレードを購入してくれる訳です。

ただ面白いのは、人間には『極端の回避性』という心理があります。
例えばマクドナルドのドリンクのように容量によってS、M、Lとグレードが分かれていると、必ず真ん中の『M』を選択する人が一番多くなるという法則があるのです。

これは、
● Sは一番安いが容量が少ない。
● Lは容量が一番多いものの値段が高い。

だから、真ん中のMを選ぶのが無難かな・・・という心理が働く為です。
もちろんS、Lを選択する人もいるのですが、基本的に人間には『極端』な選択肢を回避しようとする性質があるという事を覚えておいてください。

【対策③】端数価格効果を使う

これは定番過ぎて誰もが知っているかもですが、『端数で価格を表示する』というのもちょっとしたテクニックです。

要するに、

● 200円の野菜を『198円』。
● 30,000円の家電製品を『29,800円』。

という風に表示するということです。これだけでも多少の値ごろ感をアピールできます。

なぜこれが効果があるのかは諸説ありますが、人間の脳は表示されている数字の『一番上の位』でそれが大きいか小さいかを判断します。
30,000円だと『3万円台の商品』と脳が認識するのに対して、29,800円は『2万円台の商品」と認識するので値ごろ感を感じさせることができるという訳です。
非常に小さなことのように思うかもしれませんが、消費者心理学できちんと証明されている効果です。

<パターン③>予想される商品価値と比較

商品から得られる価値に比べて『高い!』

例えばあなたがスマホを買い変える時、『これまで持っていたスマホに比べてどんな新しい機能が付いていて、自分の生活が前よりどのくらい便利で快適になるのだろう?』と考えますよね。
または家具を買う時、『このテーブルをリビングに置いたらどんな素敵な生活が待っているんだろう?』とウキウキしますよね。

モノを買うという行為は、それと同時に『その商品から得られる価値』を頭の中で想像しています。
従いまして、その価値が自分が支払う額に見合ってない時は『高い!』と感じてしまう訳です。

本当に金額ほどの価値がないのであれば商品づくりからやり直した方がよいと思います。
しかし、僕がこれまで多くの方の事例を見ていると単純に『お客様を納得させる商品価値説明』になってないケースがほとんどなのではないかと感じています。

【対策】 4つの学習タイプを使って商品価値を説明する

『商品価値の伝え方』は色々とありますが、慣れない方におススメの『型』があります。
それはアメリカの教育論者であるデイビッド・コルブが提唱した「4つの学習タイプ」というものです。

人間にはどのような情報を与えれば(学習させれば)行動に移してくれるのかを4つタイプに分けて説明しています。
その人が4つのタイプのどれに当てはまるかに応じて使い分けてもよいのですが、通常は4つ全部を商品説明の中に入れてセールスします。

その4つのタイプとは、

  1. 「なぜ」タイプ:理由を知りたい人
    『購入する事で得られるメリット(得たい欲)』と『購入しない事で発生するデメリット(避けたい欲)』を説明されないと購入へのモチベーションが湧かないタイプ。
  2. 「なに」タイプ:データや事実を知りたい人
    『主張を証明する事実』や『歴史的な根拠』、『科学的データ』を提示され、自分が何を買おうとしているのかを理解しないと動かないタイプ。
  3. 「どうやって」タイプ:具体的な行動手順を知りたい人
    その商品/サービスを購入した後で自分が行うべき具体的手順が分からないと動かないタイプ。
  4. 「今すぐ」タイプ:今すぐにできることが知りたい人
    背景や理由は二の次で、今自分は何をすべきかを重視するタイプ。

です。

この「4つの学習タイプ」についてはとても重要なので、詳細は別のブログで紹介します。
ただ1つおススメなのですが、上記4つを頭に入れた上で是非テレビショッピング番組を見てみて下さい。
ジャパネットたかたやショップジャパンなど、なぜテレビ通販で多くの方が半ば衝動買いで商品を買ってしまうのかというと、上記の4つがセールストークに巧みに取り入れられているからだという事が分かります。

<パターン④>市場相場と比較

市場相場に比べて『高い!』

ある程度成熟した市場であれば、お客様の脳には『相場感』というものが存在します。
要するに、だいたいいくら位がその商品の平均価格か?ということです。
例えばイチゴ1パックであれば400~500円くらいが現在の相場ではないかと思いますが、それが1パック1,000円と表示されていたら流石に『高い!』と思ってしまいますよね。

基本的には上記のような食品や生活必需品など、ターゲットとするお客様が買い慣れている商品には脳の中に相場感が形成されています。
しかしながらそれ以外の商品でも、最近はインターネットでも容易に相場感を知る事ができてしまいます。

先日僕は仕事で使う為に『ホワイトボード』を買おうとインターネットで検索したのですが、様々な会社が販売しているホワイトボードの大きさ、仕様、価格が一目で比べられるのですよね。

 【対策】簡潔な説明武装する

市場相場よりも高い値段で売りたい時に行わなければいけないのは『高い理由を説明武装して、それを簡潔に説明する』ことです。
『簡潔に』という部分がとても大切です。高い値段の理由をだらだらと説明しても誰も聞いてくれません。

先日私が買おうとしていた『ホワイトボード』も大きさによって価格に差はありますが、脚が付いているモノだと概ね10,000~15,000円が相場です。
しかしその時、30,000円という群を抜いて高い商品がありました。

なぜこんなに高いのだろう?と商品紹介を見てみると、『コンパクトに折りたためて事務所の隅に収納できる』ことが写真入りで書かれていました。
なるほど、これならそりゃ高いよなという感覚です。

逆に値段が安すぎる時も簡潔な説明武装が必要です。
価格は品質のパラメータですので、極端に安いと『この商品は何か品質的に問題があるのではないか?』と疑われる傾向にあるからです。

『訳有り商品』、『賞味期限間近』、『産地直送』など安い理由を簡潔に説明しておく必要があります。

<パターン⑤>競合商品と比較

他社商品に比べて『高い!』

これが一番やっかいかもしれません。
全く同じ電化製品なのに家電量販店AとBでは販売価格が異なるというのであればまだしも、

例えば『あっちのスポーツジムのダイエットプログラムは月3万円なのに、何でこちらのジムのプログラムは月4万円も取るの?内容は対して変わらないのに!』

なんて話を持ち掛けてくるお客様のことですね。
商品内容が同じとはいえ、各会社やブランドの状況が異なるので価格が違うのは仕方のないことです。

【対策】説明武装をするも、基本的にはセールスしない

まずはパターン④同様に説明武装ができるのであれば、その説明をした方がよいです。
ただ一概には言えないかもしれませんが、正直このようなお客様に無理矢理購入を勧めるのはやめておいた方がよいと思います。

このように他社の価格と比べてあれこれ言ってくる人達のことを『価格コンシャス (price-conscious)』と言います。
要するに値段や割引を意識しすぎる人達のことです。

もちろん人間なので『なるべく安く買いたい!』という気持は分かるのですが、こちらにもその値段で売りたい理由がある訳ですよね。
また一度こういう方々をお客様にしてしまうと、次回も同様に値引きを求めてきたり、他社との比較結果を説明してきたりします。

商売というのは売り手と買い手の取引なので別にこちらが下手に出る必要は全然ありませんし、『この人には売りたくないなあ』と感じたら売らなくてもいいと思うのです。

まとめ:価格にプライドを

いかがでしたでしょうか。
そもそも商品の価格というのはその人が購入した時に伴う『支出の痛み』なので、基本的にはなるべく最小限にしたいのが人間の心理です。

『高い!』と言われただけで値段を再検討するのではなく、そのお客様はどのパターンでそう言ったのかを考えてみることが大切だと思います。

もちろん、本当に『自分の設定した値段は高すぎた』と納得できるのであれば値下げも止む負えないですが、まずは自分の価格設定にプライドを持ってください。

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