
マーケティングリサーチの学び場『Lactivator』代表。自動車会社でマーケティングリサーチに従事後、誰でも気軽にマーケティングを学べる場として2012年に本サイトを開設。また故郷:群馬県の活性化の為、2013年より上毛かるたの日本一決定戦『KING OF JMK』を主宰。著書『上毛かるたはカタル』も発売中。
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こんにちは、マーケティングリサーチャーの渡邉俊です。
今日は、CMなどの広告に携わるマーケティング担当者なら気になる「AIタレント」についてお話しします。
今やAIを使えば、可愛い女性もかっこいい男性も、実写に近い精度で映像化できるようになりました。これを動画広告に使えば、芸能人を起用するよりコストを抑えられるという話もよく耳にします。
では、人間のタレントはもう不要になるのでしょうか。
実は、話はそれほど単純ではありません。今日はこの問いを、マーケティングの視点から掘り下げてみたいと思います。
▼動画でも解説しています
広告で使われ始めたAIタレントの現状
AIタレントとは、その名の通りAIで制作されたバーチャルタレントのことです。
最初に大きな注目を集めたのは2023年。飲料大手の伊藤園が「お〜いお茶 カテキン緑茶」のテレビCMにAIで生成したバーチャルヒューマンを起用し、日本初のAIタレントを起用したテレビCMとして話題になりました。
※伊藤園のAIタレントCMについては、こちらの記事でも紹介されています。
同じ2023年には、野村ホールディングスが新NISAの広告ポスターにバーチャルヒューマンの「imma」を起用。さらに同年、パルコはホリデーシーズンの広告を、人物や背景も含めてすべて生成AIで制作しています。
そして2026年現在も、こうした活用は静かに広がっています。ポイントは「静かに」という点です。
皆さんも感じているかもしれませんが、AIタレントが主役となって大きな話題を呼んだケースは、伊藤園以降あまり出てきていないのです。
企業がタレントを起用する本当の理由
なぜそうなるのか。それは、多くの人がタレント起用の意味を少し誤解しているからです。
そもそも、企業がタレントを広告に起用する理由は何だと思いますか。有名だから、顔がいいから。もちろんそれもあります。
しかし、もっと深い理由があります。それは、そのタレントの人生や人格、背景をブランドに転写するためです。
「やっちゃえ NISSAN」に学ぶ、人生を背負った言葉の重み
わかりやすい例を一つ挙げましょう。私自身も前職で制作に関わったのですが、2015年に日産自動車が「やっちゃえ NISSAN」というキャンペーンを展開しました。起用したのは、ロックのカリスマである矢沢永吉さんです。
当時(そして今も)、自動車業界では電気自動車と自動運転が未来の技術として注目を集めていました。日産はこの2つの分野で多くの特許技術を持っていたため、「困難もあるだろうが、どんどん突き進め」という意味を込めて、矢沢さんが日産を鼓舞するようなCMに仕上がっていました。
「やっちゃえ NISSAN」という言葉は当時かなり話題になり、ものすごい重みを持っていました。なぜか。人生をまさに“いい意味でやっちゃってきた”矢沢永吉さんが言っていたからです。
矢沢さんは広島に生まれ、幼少期はかなり貧しい環境で育ち、本当に何もないところからロックスターへと登り詰めました。業界のさまざまな常識を何度も打ち破り、失敗しても這い上がり、文字通り「やっちゃってきた」人生を歩んできた人です。
だからこそ、矢沢さんが放つ「やっちゃえ」という一言には圧倒的なリアリティが宿ります。そして視聴者は、無意識のうちに矢沢さんの人生ごと、その言葉を受け取っているのです。
これは、AIタレントには絶対にできないことです。どれだけ映像がリアルに見えても、AIには生きてきた歴史がありません。これは技術がどれだけ進歩しても生まれるものではないと思います。
ちなみに当時の「やっちゃえ NISSAN」には、矢沢永吉さんのほかにもう2人の有名人が出演していました。当時、朝ドラ『マッサン』で活躍していた俳優のシャーロット・ケイト・フォックスさんと、ドイツ・ブンデスリーガでプレーしていたサッカー選手の武藤嘉紀さんです。
私としてはこの2人のバージョンも好きだったのですが、結果的には矢沢さんのインパクトが強烈すぎて、ほとんど話題になりませんでした。やはり「やっちゃえ」という言葉は、すでに人生の頂点を極めた矢沢さんだからこそ、圧倒的な説得力を持ち得たのだと思います。
※人や商品が背負ってきた歴史がなぜ人を惹きつけるのかについては、こちらのブログも参考になりますのでご覧ください!
AIタレントが活きる場面、活きない場面
では、AIタレントは今後まったく起用されないのかというと、そうではありません。「顔が必要なのか、人格が必要なのか」という軸で考えると整理しやすくなります。
AIタレントが活きるのは、顔が必要な場面です。たとえば女性向けの化粧品やファッションなど、出演者の背景をあまり必要としないCMであれば、AIタレントはむしろ優秀です。
コストが安く、何度でも修正でき、スキャンダルで炎上する心配もありません。合理的な選択肢だと言えるでしょう。
一方、AIタレントが向かないのは、「やっちゃえ NISSAN」のように人格が必要な場面です。「この人が言うから信じられる」「この人が使っているなら欲しい」――そうした感情を呼び起こしたいときは、生身の人間にしか生み出せないものがあると思います。
つまり、「かっこいい男性なら誰でもいい」「可愛い女性なら誰を使っても同じ」という場合はAIタレントで十分です。しかし、「この人だからこそ意味がある」という起用には、決して代わりになりません。
AIタレントを使い捨てにするリスク
もう一つ注意すべき点があります。先ほどのように「顔が良ければ誰でもいい」とAIタレントを使い捨てにすると、ブランドに“顔”が定着しないというリスクです。
たとえば、かつて放送されていたソフトバンクの「白戸家」シリーズのCM。上戸彩さんや、お父さん役の白い犬を長年起用し続けたことで、「ソフトバンク=白戸家」というブランドイメージを築き上げました。
もし毎回違うAI美女を起用していたら、あの資産は生まれなかったはずです。
だからこそ、AIタレントを使うなら、使い捨ての“顔”として使うのか、それとも育てていくキャラクターとして使うのか、戦略を持っておく必要があります。
※広告によってブランドイメージがどう形成されているかを確かめたい場合は、こちらのブログも参考になりますのでご覧ください!
まとめ
今日のポイントは4つです。
- 企業がタレントを起用するのは、その人の人生や人格、背景をブランドに転写するため
- 生きてきた歴史を持たないAIタレントには、言葉に重みを与えることができない
- 「顔が必要な広告」ならAIタレントは優秀、「人格が必要な広告」には向かない
- AIタレントを使うなら、使い捨てにするのか育てるのか、戦略を持っておく
AIタレントは、これから確実に広がっていくと思います。ただし、主役にはなれない――それが私の考えです。ブランドの核心を担う広告、つまり「この人だから意味がある」という起用は、これからも生身の人間にしかできません。
言い換えれば、言葉はきついですが、「ただかっこいいだけ」「ただ可愛いだけ」のタレントは、今後AIに取って代わられる可能性が高いということです。広告において、タレントは顔ではなく人生を売っている。そういうことなのだと思います。
よくある質問
Q1:AIタレントを広告に起用するメリットは何ですか?
A1:コストを抑えられること、何度でも修正ができること、スキャンダルによる炎上の心配がないことです。女性向け化粧品やファッションなど、出演者の背景をあまり必要としない広告であれば、合理的な選択肢になります。
Q2:AIタレントが向かないのはどんな広告ですか?
A2:「この人が言うから信じられる」「この人が使っているなら欲しい」といった感情を呼び起こしたい広告です。タレント起用の本質は、その人の人生や人格、背景をブランドに転写することにあり、生きてきた歴史を持たないAIタレントにはそれができません。
Q3:AIタレントを使う場合に注意すべきことはありますか?
A3:「顔が良ければ誰でもいい」と使い捨てにすると、ブランドに“顔”が定着しないリスクがあります。使い捨ての顔として使うのか、長く育てていくキャラクターとして使うのか、あらかじめ戦略を持っておくことが大切です。
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