
マーケティングリサーチの学び場『Lactivator』代表。自動車会社でマーケティングリサーチに従事後、誰でも気軽にマーケティングを学べる場として2012年に本サイトを開設。また故郷:群馬県の活性化の為、2013年より上毛かるたの日本一決定戦『KING OF JMK』を主宰。著書『上毛かるたはカタル』も発売中。
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こんにちは、マーケティングリサーチャーの渡邉俊です。
少し古い話になりますが、正露丸のプレスリリースについてのお話です。
30代以上の方ならほとんどの人が知っている『正露丸』。
大幸薬品さんが製造している胃腸薬で、お腹が痛くなったり、下痢をしたりした時にとりあえず正露丸を飲む。という感じで昔はみんな飲んでいました。
特徴は何とも言えない臭い。シンプルに言えば”くさい”のですが、その臭さがなんとなく効きそうなイメージもあったんですよね。
ただ若い人たちは正露丸のにおいを知らないようです。
ポイントとなるのは、2021年12月に大幸薬品から発表された、あるプレスリリースです。
▼動画でも解説しています
「20代の5人に1人は正露丸のにおいを知らない」
そのプレスリリースのタイトルは「においに世代間ギャップ 20代の約5人に1人は『正露丸』のにおいを知らない!?」。
調査内容自体はシンプルで、20歳から69歳までの1,000人の方に調査を行っています。
※このプレスリリースは、こちらで公開されています。
結果は年代によって多少数字が違いものの、30代以上ではおおよそ1割〜1割5分ほどが「好き」、半分から6割ほどが「嫌い」と答えました。この結果は「そりゃそうだろうな」という感じですよね。
ただ大幸薬品さんが注目したのはここではなく、20代の結果です。20代は、約1割の人が「好き」、約45%の人が「嫌い」と答えたのですが、ポイントは19.5%の人が「嗅いだことがない」と答えていることです。
20代の5人に1人ぐらいは、そもそも正露丸のにおいを知らないし、飲んだこともないということになります。
普通の企業だったらこのデータを見なかったことにするかもしれませんし、公開なんてもってのほかだと思います。
だって”自社製品の認知が若い人ほど低い”と、わざわざ自分たちの評価を下げるようなことは言いたくないからです。
でも大幸薬品さんは敢えてプレスリリースに書いて、しかも見出しに持ってきたのです。
これは当時テレビのワイドショーやインターネットニュースでものすごく取り上げられました。
結果としてお金をかけずに、正露丸を再び世間の人に認知してもらえるきっかけが作れたわけです。
実はちゃんと商品宣伝にもなっている
このリリースをよく読んでみると、ちゃんと商品宣伝にもなっています。
内容を整理すると、においが苦手な方にはにおいの少ない「セイロガン糖衣A」もあること。さらに5歳から服用できること、そして67%の人が「自宅の常備薬に入れておきたい」と回答していること。
つまり自虐をフックに読者を引き込んで、気づいたら商品情報をしっかり読まされている。そんな巧妙な構造のプレスリリースになっているのです。
5年前のプレスリリースなのですが、今読んでも本当によくできていると思います。
なぜ自虐が効くのか?【プラットフォール効果】
このリリースがなぜ巧妙なのかというと、一言で言えば自虐だからです。
これは心理学的にも裏付けがあって、プラットフォール効果と言われています。
有能な人がちょっとした失敗や自分のダメなところを見せると、完璧な人よりも好感度が上がるという効果です。
すごくきちんとしている人が意外な一面を見せてくれるとホッとしますよね。人間は完璧すぎるものには無意識に身構えてしまいますが、逆にちょっと隙があるものに対しては親しみやすいと感じる生き物なのです。
これは企業の広告にもそのまま当てはまります。
プレスリリースなどでも「東大合格者数ナンバーワン」とか「お客様満足度98%」といったことをエビデンスを含めてきちんと公開すべきですが、何度もやられると消費者は「またか」「本当かよ」と心理的なバリアを張ってしまいます。
そこで「うちの商品、実は若い人にあまり知られていないんですよね」と言われると、「え、そうなの?」と興味を持って自然とバリアが下がります。これがプラットフォール効果のマーケティングへの応用なのです。
※マーケティング心理学の基本原理については、こちらのブログで解説していますのでご覧ください!
弱みを認めて注目を集める
この手法はほかにも似た事例があります。
例えば2009年にアメリカでドミノ・ピザがやった「自社のピザはまずい」という広告キャンペーンです。
実際に消費者から寄せられた「ダンボールみたいな味」という辛辣な声をそのまま流して、「だから作り直しました」と宣言しました。するとこれが大ヒットし、株価が一時約4倍まで跳ね上がったそうです。
日本国内でも島根県が以前作った「島根は鳥取の左側です」というPRポスターがあります。
これらに共通しているのは、弱みを認めることで逆に注目を集めるという構造です。この正露丸のリリースも、この系譜にしっかり位置づけられる事例です。
注意点:セールスポイントは消さない
ただ、何でもかんでも自虐すればいいというわけではありません。ポイントは商品のセールスポイントは消さないことです。
正露丸の場合、自虐に使ったのは「商品を知らない人がいる」という認知に関する点でした。もしこれが「正露丸は実は効きません」のように効能や品質を否定してしまうものだと、ブランドを毀損することになります。
商品はすごくいいのですが、それ以外の「実はここが問題なんですよね」というトーンの自虐ネタでないと危険なPRになってしまう可能性があります。広告を作るプランナーのセンスにもよるのでちょっと難しいところですけどね。
でも自分のいいところしか言わないブランドは怪しまれるので、こういうことも、時には必要です。
プレスリリースについては多くの企業が制作して配布していると思いますが、報道関係者の立場になってみると毎回何百枚というリリースが届きます。そのためほとんどが埋もれて全く見られずに終わります。
注目してもらうためには今回のような工夫が必要です。
※調査結果を商品やブランドのPRに活用する方法は、こちらのブログで解説していますのでご覧ください!
よくある質問
Q1:プラットフォール効果とは、何ですか?
A1:有能な人が、ちょっとした失敗や自分のダメなところを見せると、完璧な人よりも好感度が上がる心理効果です。企業の広告やPRにも応用できます。
Q2:正露丸のプレスリリースは、何がすごかったのですか?
A2:「20代の約5人に1人は正露丸のにおいを知らない」という、自社にとってマイナスにも見える調査結果を、あえて見出しにして発表し、多くのメディアに取り上げられました。しかも、においの少ない製品など、商品の情報もきちんと伝わる構造になっていました。
Q3:自虐を広告やPRに使うときの注意点は何ですか?
A3:商品のセールスポイント(効能や品質)は否定しないことです。自虐に使うのは、認知度など、商品の本質以外の点にとどめないと、ブランドを傷つけるおそれがあります。






















