マーケティングリサーチの学び場『Lactivator』代表。自動車会社でマーケティングリサーチに従事後、誰でも気軽にマーケティングを学べる場として2012年に本サイトを開設。また故郷:群馬県の活性化の為、2013年より上毛かるたの日本一決定戦『KING OF JMK』を主宰。著書『上毛かるたはカタル』も発売中。
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マーケティングリサーチャーの渡邉俊です。
『アンケート調査をやりたいけど、これで大丈夫なのか不安なので誰かに見てもらいたい…』
『お客様の声を聞く為にアンケートを作ったけど、これで良いのかわからない…』
『そもそもアンケート作成の方法を知らないし、コツもわからない…』
そんな悩みがある方の為にLactivatorでは「アンケート添削サービス」を行っています。
※アンケート添削は『調査のまなびば』というサービスの中で実施しています。
ご興味ある方は是非こちらをご覧ください↓
2016年にサービスを開始して、これまで200件程度の添削を行ってきたのですが、ここでは僕がどんな所に主眼を置いて添削を行っているのかについてポイントをまとめました。
最近はgoogleのアンケートフォームやQuestant(クエスタント)などインターネットでのセルフアンケートASPツールも浸透してきて、自分でアンケートを作ってリサーチを行うという方も増えています。
ですが、そのアンケートで回答を集めても、結果が自分の知りたい事に繋がらず、役に立たなかったという方も大勢います。
僕はプロのマーケティングリサーチャーとしてそんな方のお手伝いをしています。
どんな視点で添削をしているのか、是非アンケート作成時のご参考になれば幸いです。
アンケートに必要な『仕掛け』と『仕込み』
チェックリストの話をする前に、アンケートを作成する際に意識すべき事は以下です。
※ちなみにリサーチ業界ではアンケート票の事を『調査票』と呼びます。
但し今回は敢えて『アンケート』という言葉で説明を続けます。
・回答結果を集計・分析すればアンケートの目的(ゴール)を達成できるか。
・回答者の本音が聞き出せるよう最大限の『仕掛け』と『仕込み』がされているか。
・回答率を少しでも上げられるよう最大限の『仕掛け』と『仕込み』がされているか。
後述しますがアンケートには『実施する目的(ゴール)』というものが必要です。
これを達成できる形になっているかがまず大事です。
そして更に、回答者が本音でかつ面倒くさがらずに答えてもらえるような設計になっていないといけません。
その為の『仕掛け』と『仕込み』がなされているかが重要です。
【5つのポイント】『アンケート設計』で押さえるのはここ!
「アンケートを添削する」と言うと、多くの方が質問文や選択肢の書き方を添削するのだと思うはずです。
もちろんそこもきちんとチェックしますが、その前に確認しなければならない重要な事がいくつかあります。
それは、
①アンケートを行う背景
②アンケートの目的(ゴール)
③調査課題に関してご自身が持っている仮説
④回答してもらう対象者
⑤実査(回答を受け付ける)期間
の5つです。
いわゆる『アンケート設計に必要な5つの要素』です。
ここができていないと、どんなに書き方や言い回しが完璧でもビジネスに使える結果が出てきません。
1つ1つ順を追って説明します。
①アンケートを行う背景
まずアンケートを行う背景は何でしょうか?
もしあいまいなのであれば、きちんと整理して書き留めておくことをお勧めします。
例えば、一言で『当店(飲食店)のサービス内容についてお客様評価が知りたい』といってもその背景は人それぞれですよね。
Ⅰ.来店者数が減少していて経営が厳しい状況にあるのか?
Ⅱ.経営は順調だが、念のためお客様評価をトラッキングしたいのか?
Ⅲ.経営しているいくつかの店舗でサービスに対するお客様評価を比較したいのか?
などが考えられますが、それぞれの背景によってアンケート作成の方向性が違ってくるのです。
アンケートをやろうと思った背景をご自身できちんと整理し、また添削をする僕もそれを把握する必要があります。
②アンケートの目的(ゴール)
『何が分かれば、このアンケートは成功したと言えるのか』を事前にきちんと決めていますか?
それが決まれば、自ずと『そのゴールを達成する為には誰にどんな質問をすればよいのか?』も決まります。
ゴールは1つに絞る必要はありません。
1つのアンケートに3~4つくらいが目安です。
③調査課題に関してご自身が持っている仮説
調査課題に対して、なぜそうなってしまっているのかの仮説はありますか?
例えば『自分の飲食店への来店客数が減少している』ことが課題である場合、どんな理由が考えられるのかについて仮説を持つ必要があります。
なぜならマーケティングリサーチは『仮説検証型』である事が基本だからです。
つまりまずはどんな理由が考えられるのかを仮説としてピックアップし、それが本当の理由なのかどうかの証拠をデータ収集するということです。
『仮説検証型』とは逆に『情報収集型』というやり方もあります。
とりあえず何でもいいからデータをかき集めて、片っ端から分析するという方法です。
しかしこれをやってしまうと99%の確率で調査目的を達成できず失敗します。
膨大な量のデータを集めて膨大な量の分析をしなければならない訳ですから、途中で挫折してしまうのですよね。
④回答してもらう対象者
アンケートを配布する対象者条件は、目的達成に向けて理に適っていますか?
アンケートの目的と仮説を決めてから、『誰に回答してもらえばその目的を達成できるのか?』を考えます。
上記の例の場合、『当店のサービス内容についてお客様評価が知りたい』という目的であれば来店されたお客様に対してアンケートを配るのは理に適っています。
但し、『当店とライバル店のサービスを比較評価したい』というのであれば、両方の店に来店経験のある方に絞って聴かないと意味がないですよね。
折角目的を決めて、良い仮説も構築できたのに聞く人を間違っているという事例はこれまでに何度も見ています。
またアンケートモニターパネルを使って調査する場合、この対象者条件が調査コストを左右します。
目的に対する対象者条件が緩すぎるとよくありませんが、逆に厳しすぎると対象者を見つける手間が多くなってしまいコストがかかるからです。
⑤実査(回答を受け付ける)期間
アンケートができたらすぐ配信!とやってしまう方も多いのですが、実は『アンケートに適していない期間』というものが存在します。
具体的には、年末年始(12/20頃~1月上旬)、ゴールデンウィーク、お盆休み (8月中旬)などの国民的な長期休暇です。
この期間中は旅行や帰省をしている方が多いので、通常よりも回答率がガクンと落ちます。
更にこの期間中は多くの方が休暇中で気持ちが高揚しているので、出てくる回答も『ノーマルモード』での意見ではない可能性があるのです。
特に、商品のブランド力調査などをこの期間中に実施すると、通常と比べて評価が高くなりがちです。
回答者の気持ちが浮かれているので、良い評価をしてしまう傾向にあるのです。
【6つのポイント】『アンケート作成』時はここをチェック!
1. アンケートの依頼文(導入文)に絶対必要な要素が入っているか
セルフ型のアンケートWebサイトを使う場合、最初のページに導入文を書く必要があります。
またメールなどで回答を頼む場合も依頼文を書かなければいけません。
その導入文や依頼文は書き出しが重要で、回答率を下げない為にも必ず以下の5つの要素が含まれている必要があります。
●アンケートのタイトル
当然ですがアンケートにはタイトルが必要です。
“自動車に関するアンケート”、”ランドセルに関するアンケート”など、ごく簡単でよいので何に関するアンケートなのかを簡潔に書きましょう。
●アンケートの目的
これもごく簡単でよいのですが、アンケートを取る目的を書きましょう。
“サービス向上の為”とか”商品開発の参考にする為”など、本当に簡単な文章で構いません。
アンケートのタイトルと目的が書かれていると、『この回答は何に使うの?』という変な不安が取り払われ、回答拒否率をある程度下げる事ができます。
但し、タイトルと目的に内容を詳しく書き過ぎてもよくありません。
『実は今新しい商品を開発しているのですが、その参考にする為に是非お客様の声を聞かせてください。』
という感じで調査の背景を詳しく書くと回答者側がそれを過剰に意識してしまいます。
ノーマルモードで回答できなくなってしまうということです。
このように、回答者の意識に偏りを与えてしまうことを”Bias(バイアス)”と言います。
アンケートを作成する際、バイアスは極力取り除くことが基本です。
●その人を回答者として選んだ理由
“このアンケートは弊社のメルマガに登録されている方全員に回答依頼しています。”
“このアンケートは弊社商品を購入いただいた方の中からランダムに選んで配信しています。”
など、回答者として選んだ理由を明記しましょう。
回答者側は『なんで私が回答者に選ばれたの?』という若干の懐疑心を持っています。
それをきちんと取ってあげましょう。
更に注意書きとして、「アンケートで取得した個人情報は厳重に管理し、本目的以外では利用致しません」という文言を入れておいた方がなお良いです。
●インセンティブの内容
インセンティブとは、回答に対する御礼品です。
もし何かインセンティブを設定するのであれば、必ず最初に書いてください。
“回答いただいた方には抽選で100名様にAmazonギフト券500円分をプレゼント致します。”
などですね。
また必ず”回答者全員”に贈るのか、”抽選”なのかを明記しましょう。
それが書いていなかった為にあとでトラブルになってしまった事例は意外と多いです。
※インセンティブについては以下のコラムで詳しく書いているので、ご参考に読んでください。
基本的にインセンティブはなくても大丈夫です。
●回答の所要時間
依頼文、導入文にはを必ず回答し終えるまでの所要時間して書いてください。
もちろん大体で構いません。
回答者側からすると、このアンケートにどのくらい時間を拘束されるのかが心配です。
それがわかる状態になっていないと回答率はガクンと下がってしまいます。
そして、所要時間は5分以内に抑えるよう質問数などを調整しましょう。
僕の経験上、5分を超えると回答率はガクンと落ち、また10分を超えると更に落ちます。
以上の5つをメールの依頼文や導入の挨拶文に含めましょう。
2. 目的を達成する為に必要な設問が設定されているか
上でもお話しした通り、『このアンケートで何が分かれば成功なのか?』を明確にして、それを達成する為だけの質問を設定しましょう。
特にアンケートモニターパネルを使う場合、設問数が多ければ多いほど費用も高くなります。
コストを下げる為にも要らない質問は極力削るべきです。
但し、分析段階で回答傾向を精査する為、『回答者の属性』を聴く質問は必ず入れておきましょう。
少なくとも「性別」、「年代(年齢)」、「居住地」は必要であり、必要に応じて「職業」、「婚姻の有無」、「子どもの有無」などを入れてもよいです。
3. 設問の順序は適切か
アンケートに関わらず、マーケティングリサーチでは質問する順序というものが結果を大きく左右します。
基本的には『回答しやすい質問を最初に、考えて答える質問は後ろ』という順番です。
※アンケートにおける設問の順序の重要さは以下のコラムで詳しく解説しているので、こちらも是非読んで下さい。
これは回答者が質問に答える事に対するモチベーションに関係します。
例えば政治に関するアンケートを取るとしたら、
『あなたは政治に興味がありますか?』
『1週間に何回ほどニュースをご覧になりますか?』
という質問から初めて、徐々に
『今の内閣についてあなたはどんな不満を持っていますか?』
という考えて答える質問に移行するという事です。
アンケートのオープニングからいきなり核心を突くような質問をしても、回答者のモチベーションがまだ高まっておらず、本音ではないその場しのぎの回答をして終わってしまうのです。
但し、質問に時系列がある場合は、それに沿って質問する必要があります。
例えばこれまでに保有していたバイクについてアンケートで聴取する場合、
現在保有しているバイクについての質問
↓
その1つ前に保有していたバイクについての質問
↓
更にその1つ前に保有していたバイクについての質問
という感じで時系列に沿って質問をしていきます。
時系列がバラバラだと回答者の頭が混乱してしまうからです。
難しいかもしれませんが、回答者の脳みそを酷使しないように質問の順序を考えてあげる事が重要です。
4. 各設問に対する選択肢は適切か
記述式(回答者に文章で答えさせる)質問では使わず、選択式(選択肢の中から回答者の考えに一番近いものを選ばせる)質問のみでアンケートを構成しましょう。
そもそも回答者から見ればアンケートというのは面倒くさい以外の何物でもありません。
自由記述欄に文章を書いて答えるとなると、更に面倒くささが倍増します。
そしてその選択肢を作成する際に気にしなければならないのは、
『MECEに選択肢が網羅されているか』
です。
MECEとは” Mutually Exclusive and Collectively Exhaustive(漏れなくダブりなく)”の略です。
要するに、
●回答者が答えたい選択肢がきちんと網羅的に存在するか
●同じ意味をあらわす選択肢が複数存在していないか
という点が重要です。
これについては以下2つブログで詳しく説明しています。
非常に重要な概念なので是非読んでください。
5. 各設問文の表現や文言は適切か
設問文の文言も大きく結果に左右します。
基本的に回答者はアンケートを流し読みします。
一言一句丁寧に読んでくれるとは絶対にないとお考えください。
その為『流し読みでも回答者に質問内容をきちんと理解させる』工夫が必要になります。
その工夫は色々あるのですが、代表的なものを以下に記します。
・質問文は2行以内に抑える
→行数が多いと、人は読む気力を無くします。
・専門用語は使わない
→当然ですが、専門用語を使う場合はきちんと脚注を入れましょう。
・大事なところは赤字やハイライトで強調する
→絶対に回答者に伝えなければならない部分は、文章のみでなく色の力を借りて下さい。
・言い回しは極力統一する
→例えば、”以下の選択肢の中からあてはまるものを全てお選び下さい“という言い回しは多く使われます。
しかしこれが、
“あなたの考えに一致するものを全てお選びください”
“あなたにあてはまるものを全部選んでください”
“あなたの気持ちにあてはまる選択肢を全てお選びください”
など、質問に微妙に言い回しが違うと回答者側としては非常に煩わしく感じてしまいます。
統一すべきところは統一しましょう。
それ以外にも主語は省かない、修飾語と被修飾語はなるべく近くに置くなど、読む人に誤解を生じさせない文章の書き方があります。
より細かい事は以下のコラムをご覧ください。
※設問文の表現についての参考となるコラムはこちらです。例文・文例も掲載しています。
6. アンケートの機能は適切に使用されているか(Webアンケートの場合)
WebアンケートASPツールには、紙の配布では不可能な機能がたくさんあります。
本音の抽出、また回答率の向上を図る為にそれらを最大限利用しましょう。
ここではWebアンケートASPツールの中でも一番人気のあるマクロミルのQuestant(クエスタント)の画像を載せながら解説します。
(私としては、Questantが一番使いやすくておすすめです。)
●改ページ
基本的には1問1ページになるよう、全ての質問に改ページを入れてください。
例えばQuestantの場合、質問と質問の間にある点線をクリックすれば簡単に改ページする事ができます。
回答者には過剰な情報を与えない状態で1つ1つの質問に答えてもらう事が基本です。
(これもバイアスを防ぐ為の1つの方策です。)
その為、次にどんな質問をするのかは極力見せない事が目的です。
●質問の分岐
例えば【質問1】で、”はい”と答えた方は【質問2】に、”いいえ”と答えた方には【質問3】にという具合に、回答結果によって次に聞く質問を変える事ができます。
回答者からすれば、関係ない質問には答えなくてよい訳ですから所要時間の削減になります。
また質問者側も、回答者に過剰な情報(本来答える必要がない質問)を見せなくて済むので、これも余計なバイアスを防ぐことができるのです。
Questantで分岐を作成する場合、以下のように”この質問を表示する条件”から各質問の表示・非表示を設定すれば簡単にできます。
●ランダム表示機能(ランダマイズ)
1つの質問の中に多くの選択肢を設定する場合、回答者によって選択肢の並びをランダム表示する機能があります。
選択肢が多いと、回答者は並んでいる最初の方と最後の方の選択肢は比較的きちんとチェックしてくれます。
しかし、真ん中付近に位置する選択肢はあまり見てくれません。
その為、選択肢をランダム表示する事によりその影響を最小限にとどめるのです。
また複数の『質問』をランダム表示させた方がよい場合もあります。
例えば複数の写真やコンセプトなどを順番に見せた上で回答してもらう場合、どの順番で見せたのかが回答に大きく影響します。
基本的には最初の方で見た写真やコンセプトより、最後の方で見たものの方が良く見えます。
心理学や消費者行動学で言う『順番効果』ですね。
その影響を最小限に留める為、質問そのものの順番をランダム表示させるのです。
Questantでこのランダム表示を設定する場合、画面の”選択肢をランダムに表示する”、”質問をランダムに表示する”から簡単にできます。
※但し、ランダム表示は使ってよい時とよくない時があります。
詳しくはこちらのコラムに書いてありますので、是非ご覧下さい。
まとめ
いかがでしょうか。
どんなアンケート調査にも言えますし、それ以外のリサーチ手法でも一緒なのですが、
上でもお話しした通り、
・設定されている質問の結果を集計・分析すればアンケートの目的(ゴール)を達成できるか。
・回答者からの本音が聞き出せるような最大限の『仕掛け』と『仕込み』がされているか。
・回答率を少しでも上げられるような最大限の『仕掛け』と『仕込み』がされているか。
この3つを念頭において作成されたものが良いアンケートです。
今日お話ししたチェックポイントはこの3つを具体化したものに他なりません。
僕が開催するセミナーや講演会などで何度も言うのですが、是非この考え方を頭に叩き込んでください!