インタビュー調査で『なぜ?』と聞いてはいけないのはナゼ?

こんにちは!マーケティングリサーチャーの渡邉です。

今日はインタビュー(定性)調査についてお話したいと思います。
最近は僕のセミナーで定性調査に触れる事が多々ある為、具体的にどうやればよいかという質問を多く受けます。
ただ定性調査は結構なスキルが必要なので、全部説明すると2~3日のセミナーが出来上がってしまうくらい奥が深いです。

その中でも重要なものの1つに『質問の仕方』があります。
実は定量(アンケート)調査の質問よりも、定性調査の質問は時間をかけて考えないと全然参考にならない調査結果が出てしまったりします。

今日はそれについてお話しします。

 

【おさらい】マーケティングリサーチの種類

以前他のブログにも書きましたが、マーケティングリサーチには『定性調査』と『定量調査』があります。

そして定量調査の代表格が『アンケート調査』であり、定性調査の代表格は『インタビュー調査』です。
もちろん細かく言えば色々な調査手法があるのですが、全ての手法は定量調査と定性調査のどちらに当てはまると考えて下さい。

また定量調査は『何かの状況、状態』を把握するのに適しているのに対し、定性調査は『何かの理由』を把握するのに適しています。
要するに定量調査は『What(何)』、『When(いつ)』、『Who(誰)』、『where(どこ)』、『How many(いくつ)』と言ったものを把握する時に使い、定性調査は『Why(なぜ)』を理解する為に行うということです。

例えば、

●なぜ、この人はスターバックスを利用したのか。
●なぜ、この人はドトールやタリーズではなくてスターバックスを利用したのか。
●なぜ、この人はタリーズを購入しなかったのか。

といった事を深く理解する為、通常は定性調査を行います。

『なぜ』を聴く為に『なぜ』を使ってはいけないのはナゼ?

ではそれを明らかにする為に、定性調査の中でどのような質問をすればよいでしょうか?
まあ普通に考えれば、

「なぜ、あなたはスターバックスによく行くのですか?」
「なぜ、あなたはタリーズのコーヒーを買わなかったのですか?」

という質問を考えますよね。
ですが、そんなにシンプルではないのが定性調査の難しいところです。

もちろん、このような聞き方をやってはいけない!という訳ではありません。
ただ使い方をよく考えないといけないのです。

【理由①】そもそも回答者は「なぜ?」の答えがわからない。

これも以前ブログでお話ししましたが、人間の行動のほとんどは無意識に行われています。その為、『なぜそのような行動をしたのか?』と直接聞いても、無意識で行っているので自分自身もわからないという事が多いのです。

多分いきなりそんな質問をしても、

『いや、何となく・・・』
『理由なんて考えたことなかった・・・』
『今日はスタバの気分だったんですよね』

という答えが返ってくるのがオチです。これだと分析に使えないのですよね。

【理由②】回答者が「なぜ?」の答えを作ってしまう事が多々ある。

このように無意識な行動に対する理由を聞かれると、人間は「う~ん・・・」と考え込んでしまいます。
それだけならばまだ良いのですが、その後回答者が頭の中で『回答を作ってしまう』ことが多々あります。
ちょっと汚い言葉を使うと、『答えをでっち上げる』のです。

ただ誤解のないように書くと、これは回答者が嘘をつこうとしている訳ではありません。
『質問されているのだから何か答えないといけない』、『答えられないと恥ずかしい』という意識が働き、何かしらの理由を作り上げてしまうのです。

自分がコンビニでお茶を買う時などを思い浮かべて下さい。
その時にどんな事を考えて数ある商品の中からそのお茶を選んだのか?と聞かれたら、本音ではないのに何となくもっともらしい理由を答えてしまいますよね。
それが『回答を作ってしまう』という事です。

このように『なぜ?』と質問した時に『回答をでっち上げられる』可能性があることは、マーケティングリサーチを行う上できちんと認識しておいた方が良いです。

【理由③】時として「なぜ?」は侮辱的な言葉になる。

「なぜ、あなたはその商品を買ったのですか?」
という質問は、文章で書くと分かりにくいかもしれませんが、ニュアンスによっては非常に侮辱的な言葉にもなりえます。

質問者にその意図はないのに、『なんでそんな商品買ってしまったの?』というニュアンスになってしまうということです。
そうなると回答者は怒ったり萎縮してしまったりするのですよね。

従いまして使い方をちょっと間違うと調査そのものが成り立たなくなる可能性もあります。

【理由④】「なぜ」の連発は回答者がリラックスできない。

定性調査では、回答者が心をリラックスにした状態でいるのが理想です。
その方が自分の気持ちや心の中で感じていることをしゃべりやすいからです。

その為、インタビュー中で「それはなぜですか?」、「それはなぜですか?」と連発してしまうと回答者はリラックスできず、理由②のように答えを頭の中ででっち上げてしまう事になります。

「なぜ?」に代わる定性調査での理由の聴き方

繰り返しですが、定性調査は『Why(なぜ)』を把握する為に行うので、絶対に使ってはいけない訳ではありません。
とはいえ、上記のようなリスクを伴う非常に難しい疑問詞です。
その為、どうやって「なぜ?」を聴くのか、いくつか対処方法を紹介します。

間接的な聞き方に置換する

先程申し上げたように、「なぜ?」という言葉は相手を侮辱するニュアンスを含んでいます。その為、ちょっと違った言葉に置き換えて質問すると、回答者としては気持ち的に答えやすくなります。

例えば、
「なぜ、あなたはこの商品を購入したのですか」

という質問をちょっと変えて、

「あなたがこの商品を買った時、どんなことを考えていたか教えていただけませんか」
「あなたはこの商品を買った時、どのように使おうと思っていましたか」

という感じです。
ニュアンス的にマイルドになって、侮辱的なイメージはなくなりますよね?

「なぜ?」という言葉を他の言葉で表現できないかをまずは考えてみましょう。

深堀する時も言葉を置き換える

また、「なぜ?」という言葉は何かの情報を更に深堀する時に使うものです。
従いまして質問者側はいきなり「なぜ?」と聞くのではなく、色々な事実を情報として得た後で使用しないといけません。

そして深堀するとしても「なぜ?」という言葉の繰り返しは避けましょう。
何度も「なぜ?」と繰り返されると回答者は「尋問」されているのではないかと不快に感じます。

「今おっしゃっていたことをもう少し詳しく教えていただきたいのですが・・・」
「それはつまり・・・」

という言葉を使って深堀するとよいです。

表情や態度で『聞きたい姿勢』を見せる

質問する側の表情や仕草も、定性調査では重要なスキルです。

「なぜ、あなたはこの商品を購入したのですか」

という質問にしても、バカにしたような顔で聴くのか、真剣な顔(もしくはにこやかな顔)で聴くのかによって回答者側の印象は大きく異なります。
またそれ以外にも態度や声のトーンも重要な要素です。

難しいかもしれませんが、基本的には『あなた(回答者)自身の事を詳しく知りたい』というスタンスでインタビューを行えば、回答者からは良い印象に映ります。

ストーリーを語ってもらうよう誘導する

『なぜ?』の代わりに、回答者がストーリーを語ってくれるよう仕向けるのも1つのテクニックです。

例えば最近カバンを買った方に、なぜそのブランドのカバンを買ったのかの理由を聞きたい時、

「あなたはなぜそのカバンを買ったのですか?」

と聞くのではなく

「あなたがそのカバンをを買った時の話を聞かせてください」

という風に聞くということです。

回答者は、購入検討を始めたきっかけから購入決定するまでのプロセスをひとつのストーリーとして語ってくれるはずです。
もちろん、うまく順序立ててしゃべれない方もいると思いますので、その場合は質問者側がフォローしていきます。質問を加えたりプローブをしたりしながらフォローします。

「なぜその商品を買ったのですか?」と質問すると、「デザインがよかったから」とか、「価格がお手頃だったから」といった答えしか返ってきません。
しかし、モノを購入するという事は何かしらストーリーがあります。
それをしゃべってもらうことによって、「いつも使っているカバンに穴が空いてしまって」、「先日お店の前を通ったら自分が好きなオレンジ色のカバンを見つけて気になっていた」取った風にきっかけから時系列で話してくれます。

また「一緒にいた友人もいいねと言ってくれて」といった登場人物や、「給料日前だったのではちょっと考えましたが」といった心の葛藤なども情報として得られます。

このような詳しい情報が定性調査では重要であり、その商品を選んだ本当の理由を聞く事ができます。

 

言葉に頼らずに『理由』を探る

前述の通り、そもそも回答者が「なぜ?」に対する答えを持っていない(意識していない)事がほとんどです。
従いまして、そこにアプローチしていくというのは非常に難しい作業なのですよね。

ですが、その『無意識にアプローチする』というのがマーケティングリサーチの面白いところでもあります。

またインタビュー調査以外に「行動観察(エスノグラフィー)」などでも重要な情報が得られますし、最近では脳波測定や表情分析といった高度な手法も注目されています。
それをやるにはかなりのコストがかかりますが、将来的には重要なマーケティングリサーチツールになってくるかもしれません。

 

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