マーケティングリサーチの学び場『Lactivator』代表。自動車会社でマーケティングリサーチに従事後、誰でも気軽にマーケティングを学べる場として2012年に本サイトを開設。また故郷:群馬県の活性化の為、2013年より上毛かるたの日本一決定戦『KING OF JMK』を主宰。著書『上毛かるたはカタル』も発売中。 ●無料メールで学ぶマーケティング講座配信中⇒こちら
たびたびメールなどで、これから起業される方や新しい商品を考えた方から、
『こんなアイデアで起業したい/新商品を作りたいのですが、渡邉さんはどう思いますか?』
という相談を受けます。
もちろん私個人の意見を言う事はできるのですが、そんな時にマーケティングリサーチに携わっている者としてお勧めしているのが『コンセプトチェック』という調査手法です。
この『コンセプトチェック』は、大企業やある程度マーケティングリサーチを知っている中小企業の方なら頻繁に行っているのですが、一人社長や個人で事業をやっている方にはほとんど浸透していません。
私自身も新しい商品やイベントを考えた時には必ずこのチェックをしています。
ちょっとだけお金はかかりますが、商品が売れれば返ってきますので、『調査は消費ではなく投資』と考えてやっていただきたいと思います。
今回はその方法について詳しく説明いたします。
どなたでもコンセプトチェックを実施できるように書きましたので是非自分の商品アイデアをチェックしたい方はご一読下さい。
コンセプトチェックとは?
コンセプトチェックの概要
コンセプトチェックとは、その名の通りで商品のコンセプトをチェックするという事です。
商品は有形のものもあれば保険やコンサルティング商品など無形のものもありますが、その商品を製作、開発する前にその概要をお客さん(正確には見込み客になり得る人達)に見てもらい、
●その商品を欲しいと思うかどうか
●どういった点が魅力的か
●逆にどういった点が魅力的でないか
●何か改善点があるとすれば、それはどこか
・・・などの意見を募る事を『コンセプトチェック』と読んでいます。
以前も他のコラムでお見せしましたが、以下はパーソナルジムの『RIZAP』のコンセプトです。
(※私はRIZAPの関係者ではないので、多分こういう事が商品コンセプトなんだろうなと思って書いています)
RIZAPは筋力トレーニングと食事指導をメインとしたダイエットプログラムを提供しており、テレビCMでも話題になりましたが『結果にコミットする』事が商品の最大の特徴ですよね。
更にトレーナーとマンツーマンでプログラムを進めていくので、途中で投げ出すことなく、確実に成果を出す事ができる事がお客様にとってのメリットになります。
このような商品コンセプトをアイデアレベルの段階でたくさんの方に見てもらい、意見をもらう訳です。
それによってお客様からの意見を基にアイデアを熟成させる事ができます。
これをやるとやらないでは、その後の商品の売れ行きに『雲泥の差』が出ます。
『コンセプトボード』が調査の肝
先程『RIZAP』の例を話した際、商品の特徴を1枚のシートにまとめていましたが、このようなシートを『コンセプトボード』といいます。
コンセプトボードは商品に関する調査を行う際には絶対に作成する必要があります。
そして、このボードがきちんと書けていないと調査ができません。
通常、文章と写真でその商品のコンセプトを簡潔に説明します。
・どんな商品なのか
・他の競合商品とは何が違うのか
・この商品によってお客様はどんなメリットがあるのか
重要なのは、商品のコンセプトをたった1枚にまとめるという事です。1つの商品コンセプトにつき1枚です。
ここはすご~~~く重要です。
要するに『自分の商品を1枚で簡潔に説明する事ができるか?』という事です。
例えば自分が家電量販店に行って『この商品の特徴はどこですか?』と聞く時の事を想像してみてください。
10分も20分もダラダラと説明されても頭に入ってきませんよね?
おそらく説明の後半はほとんど聞き流している事になると思います。
『要するにこの商品は・・・』
『早い話がこのサービスは・・・』
と30秒程度でビシッと説明してもらった方がその商品の特徴をしっかり把握できますし、購入意欲が沸くはずです。
調査の時も同じで、商品の概要を何枚もの資料で説明しても誰も目を通しません。そんな事ではだれも回答してくれなくなってしまいます。
自分の商品でこのような説明ができるか?という事です。まだ特徴をまとめきれないという方はこの機会に是非『自分の商品の特徴を1枚で説明するとしたらどうするか?』を考えてみてください。
それができないと、なかなかお客さんに商品の良い所を伝えられないはずです。
コンセプトチェックを行う際のポイント
このコンセプトボードさえ作れれば、あとはこのボードを調査の中でたくさんの方に見てもらい意見を募ればいいだけなので、誰でもコンセプトチェックができます。
しかし、きちんと行う為にはいくつかポイントがあります。1つ1つ説明しますね。
① 1つではなく、複数のコンセプトを調査にかける
通常コンセプトチェックにかける際は商品案1案だけではなく複数案(2~3案)を準備します。
絶対に複数個の案をチェックにかける事をお勧めします。
アイデアは1つしかないよ!という方も、無理矢理でもいいのでもう1~2個作ってください。
コンセプトチェックを行うと、当然ですが回答者からの評価が低いという結果が出てくる場合が往々にしてあります。
その場合、調査の中で『どんな所を改善すればよいか?』も聴いて、それを基に商品をブラッシュアップすればよい訳ですが、中には当然『改善しても良い結果が期待できないアイデア』というのもあります。
自分では良いアイデアだと思っていたのに、他人からみたらそうでもなかったというのはよくある事なんですよ(笑)
ただ、そんなアイデアを1つだけチェックにかけて『ダメでした』という結果しか出てこないのは何だか寂しいですよね。
これだと折角やった調査なのにもったいないです。
だからこそ、1つではなく複数案かけた方が望みがある訳です。
また、1案のみのチェックだと結果を判断するのに困るというのも複数個の案を調査にかける理由です。
例えばコンセプトチェックを行って、『その商品を欲しいと言っている人が50%いた』とう結果が出たとしても、果たしてこの50%という数字は高いのか低いのかの判断が難しいです。
しかし複数案かけていれば、A案は50%、B案は60%、C案は40%という風に比較ができ、『ならばB案を採用しよう』という風に判断できます。
ただ、あまり多くのアイデアを1度にチェックするとなると回答者への負担が大きくなってしまいます。
1回にチェックするのは2~3案にするのがベストです。
② 『差別化ポイント』と『お客様のベネフィット』を明確にする
先程申し上げた通り、コンセプトチェックを行う為には『コンセプトボード』を作成しないといけません。
このコンセプトボードの中で自分の商品の概要を文章と写真のみで1枚にまとめ、商品の特徴を簡潔に説明する必要があります。
1枚にまとめるとなると、写真は3~4枚、文章は150~200字程度になると思います。
そしてその文章には必ず、以下の2点を入れましょう。
・差別化ポイント:他の競合となる商品に比べ、自分の商品は何が優れているのか。
・お客様のベネフィット:自分の商品を買うと、お客様はどんなメリットを得られるのか。
この2つです。
実はコンセプトボードを作成する際、自分の商品についてこの2つがイマイチ書けないという方が結構いらっしゃいます。
私に相談を持ち掛けてくる方の7割くらいはそういう方です。
その場合は、是非良い機会ですのでこの2つを考えてみてください。
自分の商品の差別化ポイントは何か?お客様にどんなベネフィットをもたらすのか?という点ですね。
正直、この2つがしっかりしていないとコンセプトチェックをかけても悪い結果しか出てこないのは目に見えています。
回答者にとっては、『既に別の会社が売っている商品と何が違うのか?』、『これを買うと自分にとって何がよいのか?』がわからない訳ですから。
先程のRIZAPの例を思い出してください。
あのコンセプトボードには、きちんと「差別化ポイント」と「お客様のベネフィット」が記載されています。
もう1度見てみましょうか。
RIZAPの場合、差別化ポイントとお客様のベネフィットは、
<差別化ポイント>
トレーナーのマンツーマン指導と管理栄養士の食事指導だけで、『結果にコミット』するパーソナルトレーニングジム。
<お客様のベネフィット>
1人ではなく、トレーナーと一緒に目標達成に向けて進めていくので、途中で投げ出すことなく確実に結果を出す事ができる。
になる訳です。
もう1つ例を出しましょう。
以下は『AKB48』をコンセプトボードに表してみました。
(これも、私はAKB48の関係者ではないのでコンセプトを想像して書いてます(笑))
AKB48でいうと、差別化ポイントとお客様のベネフィットは、
<差別化ポイント>
秋葉原に専用劇場を持ち、チームごとに日替わりで毎日公演を行っているアイドルグループ
<お客様のベネフィット>
劇場に行けばいつでも会って姿を見る事ができる『会いにいけるアイドル』
となります。
ここ最近は多忙で、会いにいけないみたいですけどね(笑)
こんな形で、差別化ポイントとお客様のベネフィットを文章と写真で簡潔に表現して下さい。
③ 価格情報があるなら絶対に載せる
もし自分の商品をいくらで売るかが既に決まっている場合は、その価格情報もコンセプトボードに明記しましょう。
商品は良いとしても一体いくらで売るのか?はお客さんが買うか買わないかを判断する上で超大事な情報ですよね。いくら欲しい商品でも値段が高かったら買わないですし。
従いまして価格情報があれば、より正確な意見を聴取する事が可能です。
また、もしまだ値付けが決まっていないのであれば、コンセプトチェックとPSM(Pricing Sensitivity Measurement:お客様にとっての許容価格帯調査)を一緒にやるというのも手です。
※PSMの詳細については以下の記事を参考にして下さい。
⇒『値付け』の悩みをたった1つのアンケートで解決する方法
④ アンケートの流れは『答えやすい設問』から
実際にコンセプトチェックに使うアンケートは、どういう順番でどんな質問をするかというフロー(流れ)が大事になってきます。
これについては以前に以下の記事にも書きましたが、最初は『答えやすい質問』から入り、徐々に『本当に聴きたい質問』に移行するという形を取りましょう。
※マーケティングリサーチにおけるアンケートの設問の流れは、以下の記事が参考になります。
⇒アンケートの作り方を『ナンパ』に例えると
この記事でも説明した通り、アンケートマーケティングでは最初から本題の質問に入ってはいけません。
回答者の脳みそを慣らしていく、いわばウォーミングアップの設問が必要なのです。
従いまして、いきなりコンセプトチェックはせずにまずは回答者の属性(性別、年代など)などを聴く質問からしていきましょう。
あくまで例ですが、例えば生命保険に関する商品コンセプトチェックをやりたい場合、設問の順番としては、
1.性別 (あなたの性別を教えてください)
2.実子の人数(現在、お子さんは何人いらっしゃいますか)
3.末子年齢(一番年下のお子さんの年齢は何歳ですか)
4.現在、生命保険には加入されていますか。
5.<加入されていない方のみ> 生命保険に加入されていない理由は何ですか。
6.<加入されている方のみ>現在ご加入されている生命保険を選んだ理由は何ですか。
7.【コンセプトチェック:A】Aのような生命保険があった場合、あなたは加入したいと思いますか。
・
・
・
という感じでまずは答えやすい質問から入り、生命保険に関する質問をいくつか行った後、本題であるコンセプトチェックを行った方が回答者の脳みそを慣らしていけるはずです。
また更にポイントとして、最初に聴いた回答者属性の設問は単に脳みそを慣らす為だけに聴くのではありません。
最後に集計をしてデータ分析する際に使えそうな回答者属性を聴きます。
生命保険の場合、加入したいかどうかは子供が有無や人数、末子の年齢・・・などの状況によって大きく気持ちが変わりそうですよね。
従いまして、こういった設問を取っておけば、データ分析をする際に『子供の有無による生命保険への加入意向(加入したいという気持ちの度合)の違い』や『末子年齢別の生命保険加入意向』といった形で分析に使う事ができるのです。
(このような集計を『クロス集計』と言います。)
⑤ 順番効果を排除する
複数のコンセプトをチェックする際、絶対に排除しなければいけないのが『順番効果』です。実はこれ、ちょっと厄介です。
例えばA、B、Cという3つのコンセプト案があったとして、アンケートでA⇒B⇒Cという順番でコンセプトを見せると、傾向としてAは評価が悪く、Cの評価が高くなります。
こういった現象が起こることは何となく想像つくのではないでしょうか。
私はお笑い番組が大好きで、年末になると『M-1グランプリ』を楽しみに見ているのですが、最初の方に出場するコンビよりも最後の方に出てくるコンビの方が有利で決勝ラウンドに進出する確率が高いように感じませんか?
これこそが順番効果であり、人間が何かを評価する時には後に出されたモノの方が良く見えてしまうのです。
これは人間の心理的な現象ですので防ぐことはとても難しいのですが、だからといってそのままA⇒B⇒Cの順番にしておくと、ほぼ確実にCが一番高い評価になってしまいます。
これは正確な調査とは言えません。
この順番効果の影響を少しでも和らげる為に行うのが、『ランダマイズ』というアンケート調査のテクニックになります。
要するに、回答者によってA、B、Cが表示される順番をランダムにするのです。
A、B、Cの3つの案をランダムに表示するとなると、
・A⇒B⇒C
・A⇒C⇒B
・B⇒A⇒C
・B⇒C⇒A
・C⇒A⇒B
・C⇒B⇒A
の6通りの順番が存在します。
従いまして、例えばこのコンセプトチェックを300人の回答者にやってもらうのであれば、それぞれの順番を50人ずつで評価してもらう事になる訳です。
これによって『順番効果』による影響を大きく低減する事ができます。
Questantなどで設問の順番にランダマイズをかけるのは簡単です。設定画面で『質問をランダムに表示する』を開き、対象となる設問を選ぶだけです。
このように紙媒体のアンケートでは不可能な事をWebアンケートでは行う事ができます。
⑥ 必ず『消費者パネル(アンケートモニター)』を使う
上記の点に気を付けてアンケートを作成し、実際に回答していただく方に配布する訳ですが、コンセプトチェックは必ず『消費者パネル(アンケートモニター)』を使って配布を行ってください。
もちろん自分のSNSやメールを使ってアンケートを拡散させ、多くの方に回答を依頼するという方法もありますが、多少費用はかかるものの、このコンセプトチェックは迷わずにパネルを使って調査する事をお勧めします。
理由は3つです。
<回答数を集めやすい>
そもそも自分の力だけで回答数を集めるのは限界があります。アンケートですので、統計的にはより多くの回答を得た方がよいのですが、回答を依頼した人全員が答えてくれる訳ではないので、一定数集めるのに大変な労力が必要となってしまいます。
<知人ではない人に回答してもらえる>
自分の知り合いではない方に回答してもらった方が良いです。知り合いだと、否定的な意見を言いにくいという感情が出てしまい、本音を得る事ができません。
(このように、回答者の本音が得られない状態を『Bias(バイアス)』と言います。) ダメだと思ったコンセプトには、思いっきりダメ出ししてもらった方がよいです。そうでないと何の為に調査をしているのかがわからなくなってしまいます。
<回答者を絞る事ができる>
可能であれば、回答者を『スクリーニング』する事を強くお勧めします。『スクリーニング』とは日本語で『ふるいにかける』という意味であり、その商品のターゲットとなるお客様にだけアンケートに回答してもらえるように設定するという事です。
例えば先ほどのRIZAPの例の場合、全くダイエットに興味がない方にコンセプトを評価してもらっても意味がありません。おそらく提示する全てのコンセプト案で『入会する気はない』と答えて終わってしまうでしょう。
その場合、スクリーニングで『ダイエットに興味がある人』をアンケートモニターの中からピックアップして、その人に対してアンケートを配布するという方法を取ります。
どのようにやるかというと、例えば上記のように『ダイエットに興味がある人』に回答をもらいたい場合、本番のアンケートの前に『事前アンケート』を行います。
この場合、事前アンケートの中で、
●あなたは「ダイエット」に関してどの程度興味がありますか?
1. 非常に興味がある
2. ある程度興味がある
3. どちらとも言えない
4. あまり興味はない
5. 全く興味がない
という設問を設定し、「1. 非常に興味がある」、「2. ある程度興味がある」と答えた人だけ本番のアンケートに進むという方法を取るのです。
(「3. どちらとも言えない」、「4. あまり興味はない」、「5. 全く興味がない」と答えた方は事前アンケートを終えた時点で終了となります。)
⑦ 調査結果はどんなものでも信じる
上記の事を注意して是非ご自身の商品コンセプトをチェックしてもらえればと思います。
ただ最後に付け加えておくと、自分にとって都合の悪い調査結果が出てくるとそれを信じない・・・という人が結構います。
『これは調査のやり方が悪いんだ!』と思い込み、結果はなかったものにしてしまうというケースです。
やはり自分でひねり出した商品コンセプトというのは自分の子供と同じなので、良いコンセプトだと思い込んでいるモノほどかわいいのですよね。
ですから、そのかわいいコンセプトの評価が悪いと、調査の方法そのものを責めてしまうのです。
しかしはっきり言っておきますが、今まで調査の方法に文句を言って評価の悪いコンセプトをそのまま採用して成功した例は見た事がありません。
やっぱりコンセプトチェックを行った第三者がダメと言った案は、改善しないとダメなのです。
この『調査結果を信じる心』はとても大事です。
この心を持っていないと、いくら調査をやったとしても何の意味もないですからね。
調査はおみくじではありません。おみくじのならば例え凶が出ても信じなければそれでOKですが、我々がやっているのは第三者の方に評価してもらった調査結果です。
折角お金と手間をかけてやったのですから、信じてもらわないと困ります(笑)
上記のポイントに注意して、是非コンセプトチェックをやってみて下さい。
これをやって自分の起業アイデアや新商品アイデアをブラッシュアップさせた事により、大成功を収めた例はいくつもあります。
こんな感じで、是非ご自身の商品のコンセプトを上記を参考にチェックしてみてください。
おそらく色々な改善のヒントが得られるはずです。
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